東京高等裁判所 昭和28年(ネ)909号 判決
一、東京地方裁判所昭和二八年(モ)第二六四八号事件について原判決を取消す。
東京地方裁判所が同庁昭和二八年(ヨ)第一一四九号議決権行使停止の仮処分申請事件について昭和二八年三月九日にした仮処分決定を取消す。
被控訴人の本件仮処分申請を却下する。
この判決は第一、二項に限り仮りに執行することができる。
二、東京地方裁判所昭和二八年(モ)第二六九八号事件について控訴人等の本件控訴はいずれもこれを棄却する。
三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴人等訴訟代理人は、東京地方裁判所昭和二八年(モ)第二六四八号事件について主文一と同旨、同裁判所昭和二八年(モ)第二六九八号事件について本件仮処分決定を担保を供することを条件として取消す旨並びに訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実の主張は以下に記載するものの外は原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
控訴人等訴訟代理人の主張、
第一、競争関係の否定。
控訴会社の本店社屋の一部分を使用し、メリーエンドカンパニーの商号の下に経営していた外国製日用品の販売業は、仏人メリー・ミルドナーが、SPS指定業者として連合軍総司令部の認許を得て経営していたものであり、東京都中央区銀座西五丁目においてヴイジヨンの商号の下に営んでいた右同種商品の販売業は、控訴人横井英樹個人の経営にかかるものであり、又同区銀座二丁目にあつたシヨールームは、控訴会社の開設していたものではあるが、ラジオ・コーポレーシヨン・オブ・アメリカの日本代理店として電気器具の陳列宣伝とその調整等サービスをするためのものであつて、販売所ではなく勿論販売をした事実もない。しかも控訴会社は従来毛織物、電気器具等の卸売を主たる事業とし、小範囲の特定な当業者に対してのみ、商品を供給していたものである。しかるに被控訴会社は、百貨店として、あらゆる多種多様の商品を、広く多数不特定の消費者大衆に販売しているのであるから、両会社はその商品供給先は明らかに異なるものであり、競争関係にあるものではない。
第二、独禁法改正に基く抗弁。
一、仮りに控訴会社が被控訴会社と競争関係にあつたものとしても、昭和二八年九月一日私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下独禁法と略称する)の一部を改正する法律が公布施行された結果、株式保有の制限は著しく緩和され、(一)一般の事業会社については、たとえ競争関係にある会社の株式を取得所有する場合でも、そのことによつて、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合、及び不公正な取引方法によつて国内の株式を取得し又は所有する場合の外は、すべて自由となり(新法第一〇条第一項)、又(二)会社役員については、その会社と競争関係にある会社の株式を保有することを制限していた従前の規定(旧第一四条第三項)が削除されたので、全く自由となつたのである。而して控訴会社が本件株式を取得所有したことによつて、被控訴会社の競争を実質的に制限することとなるような具体的事実は全くなく、且つ本件株式はすべて証券業者を通じ、証券市場から成行相場によつて買付けたものであるから、不公正な取引方法によつたものではない。従つて本件の事実はいづれも独禁法に抵触しない。
二、しかも控訴会社は昭和二八年五月一一日定款を変更してその目的とする事業を「東京繊維商品取引所における綿糸部、人絹糸部、スフ糸部商品の仲買と、これに附帯する業務」に限定し、従来行つていた物品販売業務等一切を廃止し、同月二一日その登記を完了した。且つ前記メリーエンドカンパニー(これは控訴会社の経営にかかるものでないことは前述した)も、同年五月十日をもつて、完全に店舗を閉鎖して廃業した。従つて少くとも昭和二八年五月二一日以後においては、控訴会社が被控訴会社と競争関係に立つことは、絶対にあり得ないことゝなつたのである。この事実からしても控訴会社が、被控訴会社の競争を実質的に制限するが如きことは想像することさえできない状態となつたわけである。
三、而して改正独禁法はその附則第四項において、同改正法の施行の際に、公正取引委員会の審決が確定していない事項については、(旧法の規定で不公正な競争法であり、新法によるも不公正な取引方法であるものに関する事項の外)新法の規定を適用すると定めているが、控訴人等の、本件株式の取得保有が、独禁法に違反するや否やについては、右改正法の施行当時なお公正取引委員会において審判中であつて、その審決がなかつた(その後昭和二八年九月三〇日右審判手続を打切るとの審決があり確定した)。従つて本件株式の取得保有がたとえ改正前の旧規定に牴触するものであつたと仮定しても、改正法の規定に違反しないこと前述のとおりであるから、本件仮処分はこの点からも失当に帰し取消さるべきものである。
第三、非持株会社の抗弁。
控訴会社は前記の如く目的を変更した昭和二八年五月一一日までは、毛織物及び電気器具等の卸売業を営んでおり、その後は専ら東京繊維商品取引所の仲買人たる業務を行つているもので、改正前の独禁法第九条が規定するような、他会社の事業活動を支配する目的で株式を所有することを主たる事業とするものでなく、又他会社の株式を所有することを主たる事業とする会社でもない。又改正法の規定する株式を所有することによつて、他会社の事業活動を支配することを主たる目的とする会社でもないから、独禁法第九条に違反するものではない。而して控訴会社が本件株式を買付けるようになつたのは、実に当時控訴会社の主要商品であつた繊維品が、昭和二七年春以降値下りの状態にあつたので、その影響を避けるため、これら商品の売り抜けを行い、これに資金の融通力を合せて、しばらく業界の安定を待つ間株式投資に転換の方針を採つた関係から、他の株式と共に偶々被控訴会社の事業にも興味をもち、しかも株価の割合に将来の伸展性に富んでいると考え、被控訴会社の株式を買付けるに至つたに過ぎない。
第四、株式取得の効力についての法律上の主張の補充。
前述した如く、昭和二八年九月一日施行の改正独禁法により旧法第一〇条第二項、第一四条第三項の株式取得所有制限はなくなつたのであるから、控訴人等の本件株式所有の効力の有無に関する疑問は解消したのである(改正法附則第一条第四項)。もし株式の取得及び所有が当然無効であるとすれば、その株式の取得者に対し譲渡をした前株主は勿論、後日その株式を更に他人に譲渡した場合にはその後の全部の株主の権利義務にもすべて異動を生じ、無用に錯雑した法律関係を生ずるに至るのである。又取得所有の原因が相続にある場合の如きは解決すべからざる疑問を生ずるのである。改正前の独禁法第一七条の二が株式の違法取得の場合について、公正取引委員会にその株式の処分その他違法行為排除に必要な措置を命ずる権限を認めたのは、株式の違法取得又は所有が当然無効ではないことを前提としたものと解さなければならないことは勿論である。なお同法第九一条が違法取得者又は所有者に対する罰則の規定を定めているものも同一前提に基くものと解すべきである。或は、同法第一〇二条が「各規定施行の際現に存する契約で当該規定に違反するものは当該規定施行の日からその効力を失う」とあるを引いて、当然無効説の論拠とするものがあるが、右の規定は各規定施行の際現に存する契約の失効を定めているものであつて、既に効力を生じ終つた取得行為とか従つて権利帰属関係の失効に関係なきは勿論である。右第一〇二条の規定の如きは寧ろ当然無効説反対の資料たるべきのみ。又同法第一八条が違法の会社設立又は合併の場合に公正取引委員会に設立又は合併無効の訴を提起することを認めているのを当然無効の論拠とするものがあるが、この二種の商法上の訴は会社の設立又は合併の効力を一応認め、訴により将来解散又は会社分割に準ずる効果を生ぜしめる制度に外ならず設立或は合併の当然無効説の理論上の根拠とはならない。
第五、特別事情による仮処分取消申請についての主張の補充。
被控訴人白木屋は、公正取引委員会が昭和二八年九月三〇日前述審判手続を打切る旨の審決をなすや、直ちに同年十月八日附をもつて、株主総会開催準備のために、一一月九日より一二月二日までの間株式名義書換停止をなす旨の公告をなした。その意味は一二月二日をもつて株主総会を開催し控訴人等の株主としての議決権行使の停止中に、定款を変更し、会社の発行する株式総数を増加するにあると思われる。而して、もしこの総会において、株主に対する新株の引受権を如何ように定めるかによつて、控訴人等の権益が著しく毀損せられるに至るであろう。
凡そ民事訴訟法第七六〇条所定の仮処分は継続する権利関係につき著しき損害を避け若くは急迫なる強暴を防ぐため又はこれに類する理由より必要とするときに限りなさるべきものである。被控訴人は、控訴人等がその議決権を利用して被控訴会社の経営に参与するに至る危険があると主張するが、仮にその危険ありとするも、上述した増資総会において直ちに右のような事実を生ずべき恐れはないに反し、控訴人等に対しては仮処分の結果、その株主として最も重要視する発行株式並びに株主の新株引受権に関する重大決議に参加する権利を剥奪せられる結果を受けるに至るのであつて、後日回復すべからざる損害を被る恐れが多分にあるのである。なお被控訴人は控訴人等の株主権を否定するものであるから、控訴人等が株主として決議に参加したために不都合な決議がなされたと考える場合には、その取締役又は他の株主において非株主がその決議に参加したとし、その決議の取消を訴をもつて請求することもできるし、又決議の内容が公序良俗に反しその他法律又は定款に違反する場合には決議無効確認の訴を起すこともできるのであり、且つ又これらの関係について仮処分を申請することもできるのであるから救済を受ける方法は十分にあるのである。これに反し、控訴人等の側には、後日救済を求める途のないことは前述したとおりである。故に少くとも民事訴訟法第七五九条の規定により保証を立てて仮処分の取消を許さるべきものである。
被控訴人訴訟代理人の主張、
第一、株式取得の効力についての法律上の主張。
一、独禁法は我国における財界従来の在り方に対し劃期的一大変革を加えることを目的とするものであつて、その法規の性格が公の秩序に関する強行的のものであることは何人も異論のないところであろう。従つて改正前の法第一〇条及び第一四条の禁止規定に違反して株式を取得所有する行為が、公の秩序に反する事項を目的とするものであることは言うを俟たないところである。而して独禁法の範囲に属する事項についても各事項の性質に従い特別の規定のない限り、民法商法その他諸法規の適用を受けるものであることも亦疑ないところであるから、独禁法第一〇条第一四条に違反して株式を取得する法律行為に対しても民法の規定は当然適用せられるものであつて、民法第九〇条によれば公の秩序に反する事項を目的とする法律行為は無効であるから、控訴人等の本件株式の取得が当然無効であることについては法律上直接明文の存するところであつて、議論の余地ないものというべきである。
二、改正前の独禁法第一七条の二の排除措置は行政上の裁量によつて行為の結果又は現に存する違反状態の事実上の排除を命ずるものであつて法律上の効果を云為するものではない。株式の違法取得又は所有の場合にそのために生じた状態を排除する適当な処置を必要とすることは、その違法取得又は所有が当然無効な場合でも同様である。これをそのまゝにして放置するときは、それが有効である場合と同様に取扱われるおそれがあるからである。この規定をもつて株式の違法取得又は所有を一応有効と解すべき根拠とする理由は全然ないのである。又控訴人は相続により独禁法の禁止する株式を取得又は所有するに至つた場合には当然無効論を採るときは解決すべからざる疑問を生ずるというが、相続は法律行為ではないからたとい独禁法の趣旨に反する結果を生じても民法第九〇条によりその取得又は所有を当然無効ということのできないのは勿論であるから、この場合は一応その取得所有の効力を認めて排除措置を講ずる等の処理をなすべきものであろう。但しこの場合においてもその相続人が取得株式につき議決権を行使することの許されないのは当然であつて、相続人に対する関係においては恰も議決権のない株式を取得した場合と同様に取扱わるべきものと思われる。又独禁法第一〇二条の規定は、控訴人の主張する株式取得有効論の根拠となるべきものではなく、却つて無効説の有力な根拠である。独禁法施行前に締結せられた契約さえ失効せしめる以上施行後締結せられる契約は勿論無効とする趣旨であることは疑を容れないところである。又独禁法第九条第一項に違反して行われた会社の設立も当然無効であるが、その設立に関する事項は性質上商法の範囲に属するものであるから、当然無効を原則としながら、その取扱については商法の規定に従うべきものとしたのは当然のことである。この場合公正取引委員会をして設立無効の訴を提起せしめることとしていることは、独禁法違反の会社設立の当然無効を疑わしめる根拠とはならない。むしろこの訴の理由は独禁法違反により設立の当然無効を理由とするものである。なお独禁法が違反者に刑罰をもつてのぞんでいるからとて、その違反行為をすべて有効であるとするのは明らかに論理の飛躍である。違反行為を処罰すると同時にその行為の効力を否定する例は他にも見られる所である(農地調整法第一七条ノ四、五、第四条、第六条等)。
三、控訴人の本件株式の取得がその取得当時独禁法に違反し無効のものである限り、その後独禁法の改正により持株の制限に関する規定が緩和されたとしても、無効の取得が有効となることはあり得ない。改正法附則第一条第四項は公正取引委員会のなす審判手続に関する規定であつて、独禁法違反の行為の民事上の効力の問題には無関係のものである。況んや公正取引委員会がさきになした審判手続を打切つたのは、法第一〇条第一四条の改正によりもはや同条違反を理由とする排除措置を命ずることができなくなつたためであつて、本件株式の取得当時違反があつたという点及びその取得が有効か無効かの問題については何等判断を加えていないし又それは公正取引委員会の関知しないところである。
第二、仮処分の必要性について。
控訴人は、被控訴人が来る一二月二日株主総会を招集する準備をなしたものとして、これをもつて被控訴人が本件仮処分の継続中に控訴人等に対し損害を加えんとするものであるというも、それはなんらの根拠もない想像に過ぎない。被控訴人は来る総会において授権資本の枠を拡大する議案を提出するに過ぎないのであるから、控訴人等に何等損害を加えることはあり得ない。もし右総合の議案が決定した上果して控訴人等のいう如き控訴人等に損害を与える如き事項がある場合にはその時控訴人等の所謂予防手段を講ずればよいのである。しかるに、もし控訴人等が自由にその株主権を行使して株主総会に出席し、又は臨時株主総会を招集せしめて取締役の改選その他重要なる会社の営業方針に反する決議をなし、例えば現重役が提出したる授権拡大案に反対したような場合には、これにより生ずる混乱その他に因る損害の如きは到底算定すら不能であつて、回復は不可能ともいうべきである。これに反し本件仮処分により控訴人等が被ることあるべき損害は控訴人の主張に従うも増資の場合におけるその所有株式に伴う利権に過ぎないから、その損害の算定は容易であり且その回復も被控訴人の現資産状態をもつてすれば何人も極めて容易であることを認めるであろうと述べた。
<立証省略>
三、理 由
被控訴会社が大正八年設立にかかる百貨店業及びこれに関連する物品の製造、加工、卸売等の営業を目的とする一株の金額五〇円、発行する株式の総数四百万株、発行済株式の総数四百万株の株式会社で、東京都中央区日本橋通一丁目九番地の二にその本店を有し、百貨店業を経営し、各種商品の販売をしていること、控訴会社横井産業株式会社は昭和二十二年設立せられた資本金三千万円の株式会社で、東京都中央区銀座一丁目二番地にその本店を有すること、昭和二七年九月頃から翌二八年一月三一日迄に至る間被控訴会社の株式が、控訴会社名義で合計五二万六六六〇株、控訴人横井英樹(以下単に控訴人横井という)名義で合計一九万五〇〇〇株、控訴人佐藤名義で合計三〇万株がそれぞれ買い取られ、昭和二八年一月三一日現在いずれもその名義書替手続が完了せられたこと、被控訴人が、被控訴会社と控訴会社とは相互に競争関係にあり、控訴人等名義の右株式の取得はいずれも独禁法の規定に違反する無効のものである。とし、右株式取得行為の無効確認ないし控訴人等が被控訴会社の株主にあらざることの確認を求める本案訴訟を保全するため、控訴人等を債務者として仮処分の申請をなし、この申請に基いて東京地方裁判所が昭和二八年三月九日控訴人等名義の前記各株式についてその議決権の行使を停止する旨の仮処分決定(同庁昭和二八年(ヨ)第一一四九号事件)をしたことは当事者間に争がない。
第一、よつてまず東京地方裁判所昭和二八年(モ)第二六四八号仮処分異議事件について判断する。
控訴人等は、「本件仮処分申請は不適法として却下すべきものである、すなわち、本件株式の取得が独禁法に違反するかどうかについての審判権は、第一次的には公正取引委員会に専属するものである、しかして本件株式の取得が同法に違反する疑があり、且右株式につき議決権の行使を停止すべき緊急の必要があるときは同法第六七条の規定に従いこれが専属管轄権を有する東京高等裁判所において同委員会の申立により右株式につき議決権行使の一時停止の仮の処分を命ずべきである。従つて東京地方裁判所は同法違反事件につき第一審としての裁判権がなく右高等裁判所の発する命令と同一の効力ある仮処分命令はこれを発し得ないものと解すべきである。」と主張する。おもうに独禁法にはその第二五条第一項、第二六条、第八〇条等に同法違反の事実の有無についてはまず公正取引委員会の審決を求めるべく、同委員会の事実認定は原則として裁判所を拘束する旨の規定並びにその第八五条に公正取引委員会の審決に係る訴訟については第一審の裁判権は東京高等裁判所に専属する旨の規定が存するけれども、同法違反のすべての行為について必らず公正取引委員会の審決を経なければならないという趣旨は独禁法のいずれの規定からも出て来ない。特に定められた種類の争訟の外は独禁法違反が争点となる事件も直接裁判所の判断を受けるに支障はない。而して本件の如き争は先ず公正取引委員会の審決を経べきものとする規定はない。独禁法第六七条の規定は公正取引委員会が審判手続を行う場合にその手続に附随してなすことのできる権限を定めたにとどまり、私人間の民事訴訟による一般仮処分を排除するものと解すべきではない。しかして、被控訴人主張の前記本案訴訟については、東京地方裁判所が第一審としての裁判管轄権を有するものというべく、従つてこれが保全のためになす本件仮処分申請についても、同裁判所にその管轄権があること勿論であるから、控訴人等の右主張はこれを採用することができない。
よつて進んで本件仮処分申請の当否について考える。
控訴会社と被控訴会社は、昭和二七年一月ごろから国内において相互に競争関係にあるものと一応認められること、従つて控訴会社が前記のとおり被控訴会社の株式五二万六六六〇株を取得した行為は旧独禁法第一〇条第二項の規定に違反するものであること並びに控訴人横井、同佐藤の本件株式取得行為はいずれも同法第一四条第三項の規定に違反するものであることは、原判決の理由に示すとおりであるから、この点につき原判決の理由を引用する。控訴人が当審で新たに提出した疏明方法によるも右認定を左右するに足りない。
よつて右株式取得行為の効力について考えるに、控訴人等が右の如く旧独禁法の規定に違反して本件株式を取得したとするも、これにより直ちに控訴人等が本件株式の株主でないとするのは当を得ないと思う。その理由は次の如くである。
独禁法はその第一条に規定するとおり、一切の事業活動の不当な拘束を排除し、公正且自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とするものなるが故に、一般に公益に関する強行法規であると解するを相当とするけれども、同法に違反した行為が如何なる効果を持つかは、各規定について更に検討すべきである。本件において問題となつているのは旧独禁法第一〇条第二項及び第一四条第三項の規定に違反して取得した株式はその取得者に帰属したものか否かの点である。おもうに、右の規定に違反した法律状態を来す原因となる法律行為はこれを保護すべきではないから、右の規定に違反する契約はその効力がないと解すべきである。同法第一〇二条は独禁法の規定施行の際に存する同法違反の契約は効力を失うものと定め、かような契約の実現行為を阻止した。この規定は独禁法施行前になされた有効な契約でも同法施行によつて効力を失うことを定めたに過ぎないけれども、この規定の趣旨から考えても、独禁法施行後同法に違反する契約の実現が阻止せらるべきことは当然であると思われる。従つて独禁法第一〇条第二項又は第一四条第三項に違反する株式取得の契約はその効力を認められないであろう。しかしながら、かような違法の法律行為が任意に実行せられて、取得を禁止せられた者が株式を取得してしまつた後には如何なる法律状態になるものと解すべきかはなお一段の考慮を要するであろう。債権的な契約関係が無効であつても、これに基き既に履行せられたいわば物権的法律関係はどうなるかは別に考えられる。これを本件について見るに控訴人等は既に株式を取得し、その名義書換をも終つている。もしこの取得の原因をなした行為が無効であるが故に、株式移転も当然無効とし、控訴人等が株主でないものとすれば、第三者に対する意外な影響を生ずるは勿論、その取拾の方途に苦しむ著しい困難があり、取引の安全を害すること甚しいことは控訴人代理人の主張するとおりである。ここに旧独禁法第一七条の二の規定がある。即ち同法第一〇条第二項又は第一四条第三項の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会はその株式の全部又は一部の処分その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができるものとせられている。この規定の趣旨は前記第一〇条或は第一四条の規定に違反した株式の取得は全く無効なる故に、その株式は譲受人には帰属していないものとして処理すべきであるとの根本思想に出たものとは解せられず、寧ろ右の規定に違反して株式を取得した場合でも株式はその取得者に帰属しているものとの考え方に発足してその違法状態を排除するために株式の処分等を命じ得るものとしたと解するのが相当であろう。これが取引の安全から見ても然るべき処置である。かように考えると独禁法第一〇条或は第一四条に違反した契約によつて取得した株式でもなおその取得者に帰属するものと解するのが相当である。独禁法に違反した株式取得行為が処罰せられることは、その取得の法律上の効力の問題とは別の問題である。同法第九条第一項の規定に違反した会社の設立無効の問題はいまここに問題とする株式の帰属の問題とは直接に関係はない。会社設立無効の法理をどう理解するかによつて、前記の株式帰属についての論議を覆すものとは考えられない。
右に説明した考え方よりすれば、本件で問題となつている株式について控訴人等がその株主でないとする被控訴人の主張は採用することができない。
次に、被控訴人は、控訴会社は本件株式を取得することによつていわゆる持株会社となるに至つたものであるから、控訴会社の本件株式取得は旧独禁法第九条第二項に違反するもので、法律上当然無効であると主張する。しかし、控訴会社が被控訴会社の株式を所有することを主たる事業としている会社であること、また控訴会社が株式を所有することにより被控訴会社の事業活動を支配することを目的として本件株式を取得したものであること並びに本件株式を所有することにより被控訴会社の事業活動に著しい影響を与えたことは、いずれもこれを認めるに足りる疏明がないから、控訴会社はいわゆる持株会社となつたものとはいい得ない。従つて持株会社なるが故に控訴会社の本件株式取得が無効であるとの右主張はこれを採用することができない。
以上の理由により、被控訴人は、控訴人等が被控訴会社の株主にあらざることの確認を求める本案請求権を有せざるものであり、右は保証をもつて疏明に代えるべき性質のものではないから、本件仮処分の申請は失当として却下すべきものといわなければならない。従つて東京地方裁判所がさきになした仮処分決定はこれを取消すべく、これと趣旨を異にする原判決は失当として取消すべきものである。
第二、次に東京地方裁判所昭和二八年(モ)第二六九八号仮処分取消申請事件について判断する。
前段仮処分異議事件において説示した如く、本件仮処分決定は取消さるべきものである以上、特別事情による右仮処分取消申請はその利益のない申請であるから、その特別事情について判断をなすまでもなく、理由のないものとして却下すべきものである。従つて右申請を却下した原判決は結局相当であるから、本件控訴はこれを棄却すべきものとする。
よつて民事訴訟法第三八四条、第三八六条、第九六条、第八九条、第一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 角村克己 菊地庚子三 吉田豊)