東京高等裁判所 昭和28年(ネ)998号 判決
控訴人は適式な呼出を受けながら本件各口頭弁論期日に出頭しないが、陳述したものとみなされた控訴状によれば、控訴の趣旨は「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」というにあつて、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人において、本訴請求原因は、要するに、被控訴会社の訴外日本無線株式会社に対する債務は、昭和二四年代物弁済によつて消滅したから、仮に控訴人が右訴外会社から右債権の譲渡を受けたとしても、債権を取得すべき理由がなく、従て右債権の担保たる抵当権も控訴人に移転する理由がないのに、控訴人は譲渡により債権並びに抵当権を取得したとして、仮処分命令により本件抵当権設定仮登記をしたが、右は登記原因を欠く無効のものであるというにある。原審で述べたその余の主張は、右代物弁済の認められない場合の予備的請求原因として述べたものであると述べた外、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
当事者双方の証拠の提出、援用、認否は原判決の事実のらんに記載されているとおりであるから、これを引用する。
三、理 由
被控訴会社が昭和一九年一一月三〇日訴外日本無線株式会社より金二〇〇、〇〇〇円を弁済期昭和二〇年五月より昭和二一年一二月まで毎月末日金一〇、〇〇〇円宛を割賦支払うこと、利息は金一〇〇円につき一日金三銭の約定で借り受け、右債務の担保として原判決添附目録記載の不動産について抵当権の設定契約をしたこと及び控訴人が右債権を訴外日本無線株式会社より譲り受けたとして、長地地方裁判所に仮登記仮処分命令を申請し、昭和二六年六月一一日同裁判所の仮処分命令を得て、原判決添附目録記載の不動産につき、長野地方法務局稲荷山出張所昭和二六年六月一五日受附第五七八号をもつて、右抵当権設定契約による抵当権設定の仮登記をしたことは、当事者間に争がない。
被控訴人は、被控訴人の訴外日本無線株式会社に対する右債務は昭和二四年代物弁済によつて消滅したから、仮に控訴人がその後訴外会社から右債権の譲渡を受けたとしても、これによつて右債権並びに抵当権を取得すべき理由がなく、従つて本件仮登記は登記原因を欠く無効のもあのであると主張するけれども、右代物弁済の事実を認めるべきなんらの証拠がないから、右主張は理由がない。
よつて被控訴人の予備的請求原因について按ずるに、成立に争いのない乙第一号証の三、四、原審証人北沢与三郎、中村広助、下崎久三郎、後藤沢二郎の各証言並びに原審における控訴人本人尋問の結果を綜合すれば、控訴人が昭和二五年九月一〇日訴外日本無線株式会社より同会社の被控訴会社に対する前記金二〇〇、〇〇〇円の抵当権附債権の譲渡を受けたことが認められる。しかるに、被控訴人は右債権譲渡について債務者たる被控訴会社に対する通知がないし、又被控訴会社においてこれを承諾したこともないと主張するので考えてみるに、成立に争のない甲第三号証、第六号証の一、二、第七ないし九号証、第一〇号証の一、二、乙第一号証の一、二、原審証人高橋秀雄、山内正夫の各証言を綜合すれば、昭和二六年四、五月頃控訴人がもと被控訴会社の取締役であつた訴外高橋秀雄のところえ債権譲渡通知書(乙第一号証の一、旧日本無線株式会社清算人河野広水より被控訴会社取締役高橋秀雄宛のもの。但し右乙第一号証の一の日附に昭和二五年九月三〇日と記入されているが、控訴人が持参した当時には甲第一〇号証の二のように作成年月日の記載のないものであつて、右乙第一号証の一の日附はその後記入されたものであることが窺われる)を持参して承諾書の交付を求めたので、高橋秀雄は被控訴会社の取締役として本件債権譲渡を承諾する旨の承諾書(乙第一号証の二)を作成交付したこと、尤も右承諾書の日附は控訴人の要求によつて高橋秀雄が単に「昭和二十 年 月 日」とだけ記入したもので、乙第一号証の二の日附として昭和二十五年十月三日と記載しあるのはその後何人かによつて擅に記入されたものであること、しかるに高橋秀雄は昭和二五年一一月五日任期満了により退任し同日新たに他の取締役が就任し、同月八日その旨の登記を経由してあつたもので、従つて高橋秀雄は同日以降被控訴会社の取締役としての権限がなかつたことが認められる。控訴人は右昭和二五年一一月五日には被控訴会社の株主総会は開かれなかつたのであるから、同日被控訴会社の取締役等の役員を選任した旨の株主総会の決議も存在しないし、右役員選任の登記は訴外森儀助、桜井喜金等が当時の被控訴会社取締役社長中島進治の署名捺印を偽造してなした虚偽の登記である旨抗弁するけれども、成立に争のない乙第三号証、原審証人桜井庄平の証言によれば、被控訴会社の臨時株主総会は昭和二五年一一月五日訴外森儀助方で現実に開催され、同日前記の役員選任の決議がなされたことが認められ、原審証人森儀助の証言並びに原審における控訴本人の供述中右認定に反する部分は信用し難く、他に右認定をくつがえすに足る証拠はないし、又虚偽の登記であることを認めるに足りる証拠はないから、右抗弁はこれを採用するに由ない。もしそれ控訴人の右抗弁が前記株主総会の決議がその内容において法令又は定款に違反するがため無効であるとの趣旨であるならば、かかる主張は決議無効確認の訴のみによるべきものであつて、抗弁としてこれを主張することができないものと解すべきであるから、いずれにしても右抗弁は理由がない。
してみれば、高橋秀雄は前記債権譲渡通知並びに譲渡承諾当時被控訴会社の取締役でなかつたのであるから、同人に対する右譲渡通知並びに同人のなした譲渡の承諾は被控訴会社に対してなんらの効力を及ぼすものではないというべきである。他に被控訴会社に対し債権譲渡の通知があつたこと及び被控訴会社が債権譲渡を承諾したことを認めるに足りる証拠はないから、控訴人は右債権譲渡をもつて被控訴会社に対抗することができないものといわなければならない。従つて、右債権譲渡を前提としてなされた前記抵当権設定の仮登記は登記原因を欠く無効のものであるというべく、従つて控訴人はこれが抹消登記手続をなすべき義務あるものといわなければならない。
よつて、被控訴人の本訴請求は、その余の争点を判断するまでもなく正当であるから、これを認容すべく、これと同趣旨の原判決は相当で本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 角村克己 菊地庚子三 吉由豊)