東京高等裁判所 昭和28年(ラ)230号 決定 1953年10月24日
抗告人 若林毅作
訴訟代理人 猪股正清 外一名
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の要旨は、「今村久義は、競落人として原裁判所の指定した競落代金支払期日に支払をなさなかつたので、原裁判所は、再競売を命じ、その期日を昭和二十八年五月七日午前十時と指定した。しかして、今村久義は、再競売期日の三日前、すなわち五月四日までに、買入代金、利息及び手続の費用を完納しなかつたから、原裁判所は、再競売手続をなすべきに拘らず、競落人今村久義が同月六日に買入代金、利息及び再競売手続費用を支払つたという理由で、同月七日午前十一時十分(再競売期日の同月七日午前十時から一時間十分後にあたる)に至つて、再競売手続を取り消し、かつこれを違法であるとする抗告人の異議申立を却下した。しかしながら、競売法の準用する民事訴訟法第六百八十八条第四項を原審の如く解するならば、同条項に「再競売期日の三日前までに」と規定したのは全く無意味に帰することになるばかりでなく、本件の如く再競売期日の直前に再競売を取り消すときは、利害関係人に不測の損害を被らしめ、また一般取引の安全を害するおそれがある。従つて原決定は右法条を誤解した違法の決定である。よつて原決定を取り消し、更に相当の裁判を求める。」というにある。
よつて按ずるに、競売法第三十二条によつて競売法による競売手続に準用せられる民事訴訟法第六百八十八条第四項の再競売期日とは、再競売手続開始後直近に実施せらるべき競売期日に限るものと解すべきではなく、同期日が変更せられさらに新期日の指定ありたるときは、その新期日は同条にいわゆる再競売期日であると解するを相当とする。(大正六年(ク)第三三八号同年十二月十七日大審院決定参照)。従つて競落人が再競売期日の三日前と再競売期日との間に法定の代金、利息、手続の費用を納付した場合には、裁判所は事情によりさきに指定した再競売期日を変更して、右納付のあつた日から三日以上後の日に新期日を指定し、よつて同条第四項により再競売手続を取り消すことも可能であるから、再競売期日を変更しないで、そのまま再競売手続を取り消すこともまたなし得るところといわなければならない。何となれば、同条第四項の規定は繁雑なる競売手続を省略して迅速に競売手続を完結するための便宜の規定であつて、同項にいわゆる三日前は同項の法意にてらししかく厳格に解釈する必要がないからである。抗告人は、本件のような場合に再競売手続を取り消さないで再競売を実施するときは、先の競落代金よりも高価に競落せられることもあるべく、従つて利害関係人は再競売手続の取消により不測の損害を被ることもあるを以て、同項にいわゆる三日前は厳格に解釈するを至当とすると主張するけれども、反対に先の競落代金よりも低価に競落せられることもあるべく、裁判所が恣意により同項の適用を二三にすることは厳にさくべきところであるが、代金の納付のおくれた事情を斟酌し、止むを得ないものと認めたときは三日前をすぎたときでもこれを取り消すことができるとした方が却つて事宜に適し道理にもかなうものというべく、同条項がこんなことまで禁じた趣旨とは到底認めがたく、記録によれば、競売裁判所は右代金の納付のおくれた事情を詳細調査の上再競売手続を取り消すを至当と認めて取り消したのであつて、その判断は正当と認められるので、その取消手続には毫も抗告人主張のような違法の点なく、抗告人の主張はひつ竟独自の見解に出ずるものとして排斥をまぬがれない。されば抗告人の本件異議の申立を却下した原決定は結局正当であつて、抗告人の抗告は理由がないからこれを棄却すべきものとし、よつて、主文のとおり決定した。
(裁判長判事 大江保直 判事 岡咲恕一 判事 猪俣幸一)