東京高等裁判所 昭和28年(ラ)303号 決定
一、抗告人等と本件競売申立人たる債権者大和生命保険相互会社との間における東京簡易裁判所の民事特別調停は、昭和二十八年七月中終了したが、その際抗告人は右債権者に対し元利金四百万円を支払い、同債権は本件競売手続を終了せしめることの内約があつたので、抗告人等はその履行の準備中であつたところ、同債権者が本件競売手続続行の申立をなし、原裁判所がこれにもとずき競売手続を実施したのは失当である。
二、昭和二十八年八月十八日の本件競売期日において、執行吏は競売法第三十条により準用せられる民事訴訟法第六百六十三条の規定に反し、執行記録を閲覧に供せず、競買価額の申出の催告をなすことなく、また同法六百六十五条第二項の規定に反し、競買価額申出催告後満一時間を経過しないのに競売を終局せしめたのは違法である。
三、本件競売不動産は、東京都内随一の目抜場所であり、時価は少くとも金三千万円を下らないものであるにかかわらず、その最低競売価額はその四分の一に過ぎない。かかる低額にて競落を許可することは少くとも流質契約を禁止し、またはこれと同視すべき代物弁済契約を無効とする法律ないし判例の趣旨にかんがみ、著しく公序良俗に反するから、右競落は許可せらるべきではない。
以上いずれの理由によるも本件競落許可決定は失当であるから、原決定を取消し、本件競落を許さない旨の裁判を求める、というにある。
よつて按ずるに、
一、抗告人等と本件競売申立人たる債権者大和生命保険相互会社との間に、抗告人等主張のような、抗告人において右債権者に対し元利金四百万円を支払い、同債権者は本件競売申立を取下げる(抗告人等のいう競売手続の終了とは競売申立の取下の意に解する)契約が成立したことについては、これを認めるべき何らの疎明がないのみならず仮りに右両者間にかかる契約が成立したとするも、競売申立取下の契約は競売法第三十二条によつて任意競売に準用せられる民事訴訟法第六百七十二条第一号の異議の事由に該当しないから、これをもつて右競売法の規定によつて任意競売に準用せられる民事訴訟法第六百八十一条第二項、第三項による競落許可決定に対する抗告の理由となすに足りない。したがつて、右抗告理由第一点は採用することができない。
二、本件記録中の昭和二十八年八月十八日附競売調書(記録第一七八丁以下)によれば、同日の本件競売期日において、執行吏は本件の執行記録を各人の閲覧に供したうえ、午前十時競買の申出を催告し、右催告後満一時間以上を経過した同日午前十一時二十五分競売の終局を告知したことが認められる。右認定に牴触する抗告人等提出の疎第一号証の上申書(記録第一九三丁)の記載は、これを措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる疎明資料がない。したがつて右抗告理由第二点もまた採用することができない。
三、本件競売不動産の最低競売価額もしくは競買代金額が低廉に過ぎるとしても、右が競売法及び同法によつて任意競売に準用せられる民事訴訟法の規定に従つて決定せられる以上、公序良俗に反するものということはできない。しかも最低競売価額もしくは競買代金額が低廉であるというようなことは、競売法第三十二条によつて任意競売に準用せられる民事訴訟法第六百七十二条に列挙するいずれの事由にも該当しないから、同じく任意競売に準用せられる同法第六百八十一条第二項、第三項による競落許可決定に対する抗告理由とならないものというべきであつて右抗告理由第三点もまた採用のかぎりではない。