大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(行ナ)31号 判決

原告 森善一

被告 特許庁長官

被告参加人 日本ミシン製造株式会社

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用(参加によつて生じた部分を含む。)は原告の負担とする。

二、事  実

第一請求の趣旨

原告訴訟代理人は、昭和二十六年抗告審判第三七九号事件について、特許庁が昭和二十八年七月二十日にした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とするとの判決を求めると申し立てた。

第二請求の原因

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、原告は、昭和二十五年四月十三日、「ニユーニツポンミシン」の文字を同一書体で、一連に左から横書にして構成されている原告の商標について、第十七類裁断縫機及び部品を指定商品として、登録の出願をしたところ、(昭和二十五年商標登録願第八〇八四号事件)拒絶査定を受けたので、昭和二十六年五月二十二日抗告審判を請求したが、(昭和二十六年抗告審判第三七九号事件)特許庁は、昭和二十八年七月二十日原告の抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をなし、その謄本は、同年八月一日原告に送達せられた。

二、審決は、その理由において、原告の商標は、ミシン製造販売業者として著名な、名古屋市にある、参加人日本ミシン製造株式会社の略称として、一般世人に周知されている、「日本ミシン」と同一の称呼を、片仮名で表示した「ニツポンミシン」に、新製品において普通一般に使用されているNEWに相当する称呼の片仮名「ニユー」を、冠頭したものに過ぎないと認めるのが、取引の実際上至当であるとし、原告の商標を、その指定商品に使用するときは、あたかも参加人会社の新製品に係るものであるかの如く、世人をして誤信混同させ、商品の出所に混同を生じさせる虞があると判示している。

三、しかしながら審決は、次の理由によつて、違法である。

(一)  参加人日本ミシン製造株式会社が、名古屋市にあつて、著名であり、また、周知されていること並びにこれが「ニツポンミシン」と略称され、周知されていることは、いずれも原告の知らないところである。

由来ミシン業者は、その商品名を以て呼称せられるのが普通であつて、参加人会社は、その商品名により、「ブラザーミシン」と略称され、「日本ミシン」とは略称せられない。この点において、審決の前記認定は、全く実験則を無視している。仮りに参加人会社が、「日本ミシン」と略称せられるとしても、これに「ニユー」の文字を冠した場合、参加人会社の略称が、「ニユー日本ミシン」であるとの見解ならば格別、全然これと観念を異にして、新製品を普通に表わしたものとの審決の認定は、商号の略称との関係において、普通の取引上妥当でないばかりか、理論上からも一貫せず、原告の商標は、参加人会社の略称であるとなすべきではなく、これをミシンに使用しても、商品の出所を混同する虞はない。

(二)  原告の商標は、戦後の新しい日本のミシンを観念し、新しい製品を直ちに観念しないから、その構成上軽重の差異が生じないのが、商取引の普通であつて、これを分離して観念すべきではない。殊に他人の商号と対比して、商品の出所の混同を生ずる虞があるかどうかを問疑するに当つては、尚更のことである。従つて仮りに、「日本ミシン製造株式会社」の略称を、「日本ミシン」と略称するとしても、原告の商標を、商取引上普通「日本ミシン」の略称とは解し得ないから、原告の商標を、商品「ミシン」に使用しても、参加人会社の製造販売にかかる商品のように、出所の混同を生ずる虞は全くない。

原告は、昭和二十二年頃から今日まで、本件の商標を、商品ミシンに盛に使用して販売しているが、その商品が、参加人会社の商品と混同されたことは一度もない。

(三)  仮りに名古屋市にある日本ミシン製造株式会社が著名であるとしても、これが「ニツポンミシン」と略称され、又は「ニユーニツポンミシン」と略称されるものとは、速断することができないばかりか、その略称が需要者及び取引者間に著名であると速断することはできない。この点について、審決は、名古屋商業会議所会頭の昭和二十八年四月十八日付の報告書(乙第一号証の二)及び愛知県商工部長の同年五月二十二日付の回答書(乙第二号証の二)を援用しているが、かゝる報告書及び回答書は、原告の何等関知しないところであるばかりでなく、参加人会社と打合せなければ到底作成できないものであり、利害関係人と打合せた報告書及び回答書を以て、日本ミシン製造株式会社が「日本ミシン」と略称され、一般世人の間に周知されている事実を認定すべきではない。しかのみならず、審決は、原告に対し右乙第一、二号証の各二を提示して意見を徴することなく、右の事実を認定している。しかしながらかゝる文書は、商標法第二十四条によつて準用せられる特許法第七十二条により、原告の意見を徴すべきであるのに、この挙に出でなかつたのは不当であり、かつ審理をつくしていないものといわなければならない。

(四)  審決は、一方において、原告が提出した東京ミシン商工業協同組合理事長作成の証明書(甲第一号証)ブラザーミシン八重洲営業所宛の広告はがき(甲第二号証)並びに証人武藤徳三郎及び溝淵義雄の各証言を容認し、参加人会社の名称は、「ブラザーミシン」という俗名を以て、当該会社の名称の如く呼ばれているという事実を認定している。一方において、かゝる事実を認定した以上、これと相反する右乙第一、二号証の各二を一方的に採用するのは甚だしい矛盾であるといわなければならない。

原告の調査によれば、ミシン業者間においては、日本ミシン製造株式会社が「日本ミシン」と略称されていることを知るものは全然なく、皆「ブラザーミシン」と呼称している。

以上の事実からしても、審決が、原告の商標について商標法第二条第一項第十一号を適用し、登録を拒否したのは不当である。

第三被告の答弁

被告指定代理人は、主文第一項同旨及び訴訟費用は、原告の負担とするとの判決を求め、原告主張の請求原因事実に対して、次のように答えた。

一、原告主張一及び二の事実は、これを認める。

二、同三の主張は、これを否認する。

(一)  原告の商標「ニユーニツポンミシン」のうち、「ニユー」の文字は、「NEW」すなわち「新らしい」ことを意義する英語であり、また「ニツポンミシン」は、「日本ミシン」の「日本」を片仮名で表わした、同一の意義及び呼称であることも明白で、「ニユーニツポンミシン」は、全体として「新らしい日本ミシン」を指称するに外ならない。一方「ミシン」製造業者として、名古屋市所在の参加人日本ミシン製造株式会社は、その社名を「日本ミシン」と略称して、広く業界で周知されていることは、一般業界の経験則に徴し明かである。これら事実を勘案して審理するときは、原告の商標を、その指定商品に使用するときは、あたかも参加人日本ミシン製造株式会社の新製品にかゝるものではないかと、一般世人をして誤信せしめ、商品の出所について、混同を生ぜしめる虞があるものと判断せざるを得ない。

(二)  原告は、参加人日本ミシン製造株式会社は「日本ミシン」と略称されていないのみならず、周知されていないで、「ブラザーミシン」と称していると主張するが、参加人会社は俗称としては、「ブラザーミシン」といわれているが、社名の略称は、普通「日本ミシン」と称せられ、かつ、周知せられている。

(三)  本件の出願について、抗告審判の審理中、原審査の拒絶査定の理由とは別個の拒絶すべき理由を発見したので、抗告審判においては、改めて、その拒絶理由を原告に通知し、意見提出の機会を与えた上、審決をなしたものである。そして原告は、右新たな拒絶理由に対して、全面的にこれを否認する旨の意見書を提出したので、審決は、その拒絶理由が、社会通念上妥当であることを示すため、職権審査の結果を、その理由中に示したものであつて、職権調査の内容を、新たに拒絶理由として示さなかつたとしても、これを以て、商標法第二十四条、特許法第七十二条の規定に違反するものでないことは明白である。

(四)  更に原告は、抗告審判における証人武藤慶三郎、溝淵義雄の各証言並びに甲第一、二号証及び乙第一、二号証の採否について反対しているが、右採否はいずれも相当の根拠に基くものであつて、原告のこの点に関する主張は、単に反対せんがための、理由のない主張にすぎない。

第四立証<省略>

三、理  由

一、原告主張の請求原因一及び二の事実は、当事者間に争がない。

二、原告の登録出願にかゝる商標が、「ニユーニツポンミシン」の文字を、同一書体で、一連に左から横書にして構成され、第十七類裁縫機及び部品を指定商品としていることは、右に述べたとおり、当事者間に争のないところである。

よつて原告の商標を、右指定商品に使用した場合、世人をして、参加人日本ミシン製造株式会社の製品と誤信混同させ、商品の出所に混同を生じさせる虞があるかどうかを判断する。

三、参加人日本ミシン製造株式会社が、名古屋市に本店を有する、わが国において最も著名なミシン製造販売業者の一であることは、当裁判所に顕著な事実である。そしてその成立に争のない甲第一号証、第四号証の一、二、三乙第一、二号証の各二、丙第一、二、三、四号証を綜合すれば、参加人会社は、その製造販売するミシンに、「ブラザー」の商標を使用しているので、「ブラザーミシン」と略称せられることもあるが、またその商号の後半「製造株式会社」を省略して、単に「日本ミシン」とも呼ばれ、一般の取引者及び需要者の間においては、広く右「日本ミシン」の略称を以つて知られていることを認めることができ、前記甲第一号証中、右認定に反する部分は、当裁判所これを採用しない。

四、一方原告の商標「ニユーニツポンミシン」における「ニユー」は、英語の「NEW」に相当し、「新しい」ことを示す形容詞として、広く理解されている言葉であり、「ニツポンミシン」は前記参加人会社の広く知られた略称「日本ミシン」を片仮名で表わしたものに外ならないから、右原告の商標を、その指定商品である裁縫機ミシンに使用するときは、世人は、わが国における最も著名なミシン製造販売業者の一である参加人日本ミシン製造株式会社の製造販売する新製品のミシンと誤り信じ、商品の出所について混同を生ぜしめる虞があるものといわなければならない。

して見れば、右と同一の認定に基いて、原告の商標は、商標法第二条第一項第十一号に該当し、登録することができないとした審決は、相当である。

五、原告は、抗告審判手続における証拠の適否、その取捨選択の当否について、審決を非難しているが、当裁判所は、ひとり審決における法令の違反ばかりでなく、事実の認定についても、これを審理判断する権限を有し、本件にあつても、当裁判所における証拠調の結果に基き、前記事実を認定したものであるから、抗告審判手続における証拠調その他採証の方法が適法であつたかどうかは、これを独立の論点として、審決の取消を求めることはできないし、またその必要もないものと解せられるから、この点については、特に判断しない。

六、以上の理由によつて原告の本訴請求は、その理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、第九十四条後段を適用して、主文のように判決した。

(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)

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