大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(行ナ)40号 判決

原告 宝産業株式会社

被告 特許庁長官

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

第一請求の趣旨

原告訴訟代理人は、「昭和二十八年抗告審判第八七号事件につい、て特許庁が昭和二十八年九月十四日になした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求めると申し立てた。

第二請求の原因

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、原告は、昭和二十七年六月九日別紙記載の原告の商標について、第四十五類他類に属しない食料品及び加味品を指定商品として、その登録を出願したところ、(昭和二十七年商標登録願第一四七五七号事件)同年十二月十日拒絶査定を受けたので、昭和二十八年一月十二日抗告審判を請求したが、(昭和二十八年抗告審判第八七号事件)特許庁は、同年九月十四日原告の申立は成り立たない旨の審決をなし、その謄本は、同月十九日原告に送達された。

二、審決は、別紙記載の登録第三九五三八七号商標を引用して、原告の商標は、これと比較すると、外観上は明かな差異があるが、称呼上からは、原告の商標は、「マルタカラサン」で、引用商標は「マルタカラ」と称呼するのを自然とする。従つて両者の称呼上の差異は、尾音に「サン」の音を有するか否かだけであるが、尾音に「サン」の音を附けるのは、氏名、名称、その略称、俗称等一般に相手方を敬称する言葉として、発音上普通に使用せられるから、引用商標においても、「サン」の発音を附せられる場合もある。結局両商標における称呼及び観念は、彼此まぎれる虞があり、両商標は、取引上誤認混同を生ずる虞が十分あり、かつ、商標の指定商品においても、互にてい触するから、原告の商標は、商標法第二条第一項第九号に該当し、登録することができないものとした。

三、しかしながら、審決は、次の理由により違法である。

(一)  原告の商標は、別紙記載のように、「丸宝産」の文字を楷書体で一連に縦書し、その右側に、「マルタカラサン」の文字を並べて一連に縦書にして構成されているが、右構成文字中「宝産」の文字及び「タカラサン」の文字は、原告会社の商号を構成する文字の、最初の二字を採用したものであることは明白であつて、この文字のうち「サン」は「産」の振仮名であり、氏名、名称、略称、俗称等一般に相手方を表示する言葉に敬称として使用されているものでないことは明白である。また、これが、産地又は商品の出所を表示するものでないことも自明である。従つて原告の商標の自然称呼及び観念は、「マルタカラサン」であつて、「タカラ」または「マルタカラ」では絶対にない。

(二)  次に引用登録商標は、別紙記載で明かなように、丸の輪廓の中に「宝」と思われる文字を表わしたもので、第四十五類全商品を指定商品とするものである。

右の商標は、氏名、名称、略称、俗称等を表示するものではなく、単なる商標に過ぎない。(当該商標権者との関係においても、また同様である。)しかもこのように単なる商標に、「サン」という敬称を附するが如きは、わが国の商品取引上全然行われていないところであり、特許庁の審査例においても、未だ曾てなかつたところである。

以上の理由により、引用商標から生ずる称呼、観念は「タカラ」または「マルタカラ」であつて、「マルタカラサン」でないことは明白である。すなわち、原告の商標と、右引用商標とは、隔離的観察においても、称呼、観念上まぎれることなく、また外観上も顕著な差異があり、類似の商標と称することはできないし、また両商標は、取引上誤認混同を生ずる虞はない。

(三)  ことに引用商標の商標権者は、香川県小豆郡苗羽村訴外丸金醤油株式会社であり、同社は、日本でも野田醤油、ヤマサ醤油に次ぐ第三位に位する大醤油会社であり、その商号の略称は、マルキン又は丸金として、当業者需要者間に周知せられている。また引用商標は、現に使用されておらないから、引用商標の称呼たるマルタカラにサンを附けて、引用商標権者たる前記会社の称呼とし商品の取引を行うが如きことは絶対にあり得ない事柄である。

また何々産業株式会社という商号を有する会社は多数あり、その略称である「何々産」の構成を有する商標は、多数登録せられている。これに対し、その商標と同一又は類似の商品を指定商品として、後半の「産」の文字だけを除き、前半は同一文字からなる商標が他人によつて出願され、登録されている実例が多数あることによつても、審決の判断が失当なること明白である。これを例証すれば、登録第二二三三九三号商標は、同第一七四八三八号商標は「吾妻」の構成を有するのに、その後登録第四〇四九七四号は、同一指定商品について「東産」の商標を登録しており、また登録第二八二五五五号商標は、同第二九四六七四号商標はの構成を有するのに、同第二〇七九二九号、第三九八五四六号は、いずれも同一指定商品について、からなる商標を登録しており、更に登録第二八二五五五号商標は、の構成を有するのに、同第四四二八四二号は、同一商品についてなる商標について登録している。(以下引証を省略する。)

第三被告の答弁

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の請求原因事実に対し次のように答えた。

一、原告主張の請求原因一及び二の事実はこれを認める。

二、同三のうち、引用商標の指定商品が、原告主張のとおりであることは、これを認めるが、その余の事実を否認する。

原告の商標自体から自然に生ずる称呼は「マルタカラサン」で、引用商標は「マルタカラ」であることは明らかで、その称呼上の差異は、尾音に「サン」があるかないかの点であり、この「サン」の発音は、氏名、名称及びその略称又は俗称等を示すために、一般世人の間で普通に用いられる敬称「サン」と同一発音であることは疑う余地がない。しかも最近における商取引界の実際は、商標又は標章自体から自然に生ずる呼称に相手方を呼ぶときの敬称「サン」を尾音につけてその商標又は標章の使用主の俗称として呼んでいることが普通になつて来ている。この顕著な事実を勘案すれば、引用商標の称呼においても「サン」の発音を尾音につけて呼ぶ場合もあるものといわざるを得ないから、両商標の間における称呼上の差異は、極めて微差に過ぎないと社会通念上解せられる。従つて両商標は、称呼上彼此互にまぎれる虞が十分で、かつ観念上においても誤信される虞があり、取引上、両商標は、誤認混こうを生ぜしめるものと判断せざるを得ない。

第四立証<省略>

三、理  由

一、原告主張一及び二の事実は、当事者間に争がない。

二、右当事者間に争のない事実によれば、原告の登録出願にかゝる商標、及び審決が引用した登録第三九五三八七号商標は、いずれも別紙記載のとおりであつて、すなわち、前者は、「丸宝産」の文字を、同一大きさの楷書体で縦書にし、その右側に「マルタカラサン」の振仮名をつけて構成せられ、後者は、外側は肉太に、内側は細く描いた二重の円形輪廓内に、肉太に図案化して書いた「宝」の文字で構成されている。

よつて右両商標から生ずる称呼が果して審決のいうように、互にまぎらわしいものであるかどうかを判断するに、前者から生ずる称呼が「マルタカラサン」であり、後者のそれが「マルタカラ」であることは、一応疑を容れない。しかしながら、前者の語尾における「サン」の文字は、氏名、商号等を指称する場合の敬称、愛称に使用される文字と、その発音を同じくするから、その称呼から受ける印象からすれば、聴者はしばしば、前者の「マルタカラサン」と後者の「マルタカラ」とは、単に敬称、愛称の有無に過ぎず、両者は結局同一商標についての称呼を示すものに外ならないと誤信するおそれが甚だ多いと解せられる。尤もこの点について、審決は、後者の「マルタカラ」に「サン」の敬称が附して称呼される場合もあるとして、これと前者の「マルタカラサン」とが同一だとしているが、かゝる場合よりも、むしろ、前者の語尾の「サン」が軽く取り扱われ、「マルタカラ」の称呼が強く印象せられる場合が、多いものと解せられるが、この点は、両者が称呼上互にまぎらわしいとの判断には、影響を及ぼすものでない。

原告は特許庁における登録例のうちから、「東」、「吾妻」、「昭」を要部とする商標と、「東産」、「昭産」を要部とする商標とが、互に類似しないものとして、同一商品について登録されている登録例を引用して、審決の判断の不当のことを例証しようとしているが、右引例は、必ずしも本件に適切なものでないばかりでなく、右登録例の存在は、未だ前記の認定を覆すものとは解されない。

三、以上の理由により、原告の商標と引用商標とは、互に類似するものというべく、両商標の指定商品が互にてい触することは、当事者間に争のない事実から明白であるから、原告の商標は、商標法第二条第一項第九号に該当し、登録を受けることができないものといわなければならない。

して見れば、これと同一に出でた審決は相当であつて、原告の本訴請求はその理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のように判決した。

(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)

(別紙)

原告が出願した本件商標

(昭和二十七年商標登録願第一四七五七号)

<省略>

被告が引用した登録商標

(登録第三九五三八七号)

<省略>

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