東京高等裁判所 昭和29年(う)1062号 判決
被告人 岩田光男
〔抄 録〕
右弁護人の控訴趣意第一点について。
(1) 原判決がその摘示にかかる犯罪事実第一(賍物牙保)において、被告人は、「(中略)松田喜代次から売却の方依頼を受けていた……衣類十点を、それが賍物であると知りながら、伊堂に他へ売つてもらいたいと申し入れて引き渡し、もつて売却の媒介をし」た旨判示しただけで、右伊堂が被告人の叙上申入に基き、該衣類を何時、何処で、誰に、代金幾何で売却したかという処分行為の具体的内容を判示していないことは、まさに所論のとおりである。
しかし賍物に関する罪の本質は、賍物が転々移動して被害者の返還請求権の行使を困難又は不能ならしめる点にあるのであるから、いやしくも賍物の売却方を依頼された者が、その賍物である情を知りながら、第三者に対し、右賍物を買い受けられたき旨又は他へ売却されたき旨申し向けて、これを引き渡し、もつてその占有を移転した事実がある以上たとえその第三者が未だ現実に買受の意思を決定せず又は他へ売却した事実がないとしても、これにより被害者の返還請求権の行使は既に困難又は不能ならしめられているのであるから、賍物牙保罪の成立に必要な周旋行為があつたものと認めるのが相当であり、第三者の買受意思の決定又は周旋にかかる売買の成立は、同罪の構成要件をなすものではない。従つて同罪の判示方法としては、単に賍物の売却方を依頼された者が、その賍物たるの情を知りながら第三者に対し、その買受又は他への売却方を申し入れて該物品を引き渡した旨の事実を判示すれば足り、右第三者の買受又は他への売渡行為の内容を具体的に摘示する必要はないと解すべきである。
原判決挙示の証拠によれば、原判示のごとく被告人が賍物の売却を周旋した事実を十分に認めることができ、その事実摘示は本件賍物牙保罪の判示方法として何等欠けるところはないのであるから、原判決には所論のごとき理由不備の違法はいささかも存せず、論旨は理由がないといわなければならない。
(2) 次に原判決摘示の犯罪事実第二の(1)(覚せい剤取締法違反)は、原判決挙示の証拠、なかんづく捜索差押調書松井とみ子の警察官に対する供述調書及び被告人の検察官に対する供述調書二通を綜合すると十分にこれを認定することができ、記録を精査し、原審が取り調べたその他の証拠を参酌しても、原判決には事実誤認の疑はいささかもなく又原審が所論のごとく証拠によらないで事実を認定したという違法も存しない。更に原判決が「被告人は(中略)覚せい剤二cc入アンプル十数本を自分の体に注射して使用した」旨判示し、その量を数字的に正確に表示していないことはまさに所論のとおりであるが、本件覚せい剤取締法違反の罪における覚せい剤の数量は、必ずしも数学的な正確性をもつてこれを表示しなければならないわけではなく、単に犯行の同一性を特定するに足りる程度に判示すれば十分であると解すべく、原判文を通読すれば、原判決は本件犯行の同一性を特定するに足る程度に使用覚せい剤の数量を表示しているものということができるから、所論のごとき理由不備の違法もまた存せず、論旨は理由がないといわなければならない。