大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)1074号 判決

被告人 高橋卯之助

〔抄 録〕

論旨一について。

記録によれば、被告人は昭和二十八年九月二十九日逮捕され、同年十月十七日一個の窃盗罪の訴因で新宿簡易裁判所に起訴せられたが、同年十二月十五日同簡易裁判所に於ける第一回公判廷で検察官からの申立により、事件を東京地方裁判所に移送する旨決定され、同年十二月二十四日本件記録が東京地方裁判所に送付された後、昭和二十九年一月二十五日検察官から同地方裁判所に四十個の訴因を含む窃盗罪の起訴状が提出されたので同裁判所はこの両者を併せ審理を為し、同年二月一日(但し職権による期日変更決定のみ)同月二十四日、三月二十四日の各公判を経て同月二十四日判決宣告を受けたが、その間被告人は勾留されていたこと明白である。所論は逮捕直後被告人はすべての犯罪事実を自白したに拘らず、係官の怠慢のため調書の作成が遅れ、昭和二十九年一月二十五日附起訴状が裁判所に提出されるまでには逮捕後四ケ月を経過し、そのため被告人は新宿簡易裁判所の審理を受けられず、事件は東京地方裁判所に移送される結果となり、被告人に不当に長期の勾留を与えたと主張する。しかし簡易裁判所は窃盗罪について三年以下の懲役を科することができるのみで、この制限を超える刑を科するのを相当とするときは、訴訟法の定めるところにより事件を地方裁判所に移さなければならないこととなつている(裁判所法第三十三条参照)。従つて本件のように多数の余罪が発覚し、三年を超える刑を科するを相当とする事件については、たとえ検察官から新宿簡易裁判所に対し追起訴状を提出したとしても、新宿簡易裁判所に於て判決言渡をすることができず、東京地方裁判所に移送しなければならかつたのであるから、本件が東京地方裁判所に移送されたことが所論のように調書作成の遅延その他係官の職務怠慢の結果ではない。しかも被告人は昭和二十八年十月十七日新宿簡易裁判所に起訴されて後直ちに同裁判所から起訴状謄本と共に弁護人選任に関する通知書の送達を受け、同月二十日附書面を以て被告人自身で弁護人を選任する旨回答したに拘らず、弁護人選任届の提出が遅れ、同年十二月二日附で弁護人尾畑義純を選任する届出をしたから同裁判所は即日第一回公判期日を同月十五日と指定しているのである。右弁護届とは別に弁護人赤坂軍次の選任届は同年十一月二十九日附となつているが、これも十二月七日になつて漸く裁判所に提出されているのである。このように被告人が当然為すべき弁護人選任届の提出が遅延したことが、新宿簡易裁判所の公判期日を遅らせた有力な原因となつたのであるし、同裁判所の移送決定があつて東京地方裁判所に記録が送付されたのが十二月二十四日であつて年末繁忙の時期になつていた事を思えば昭和二十九年一月二十五日附起訴状は被告人の逮捕以来約四月を経過して提出されたとはいえ、そのため原審に於ける審理が遅れて被告人に不当に長期の勾留を科したものということができないこと明らかであつて、論旨は理由がない。

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