東京高等裁判所 昭和29年(う)1116号 判決
被告人 阿部文雄
〔抄 録〕
ところで、原判決が判示第二の(一)及び(二)の各事実に対する照応証拠として挙示するものを具さに検討すると、被告人は(一)昭和二九年一一月二四日及び(二)同月二六日の各回に、判示パチンコ店において判示野口静子をして夫々パチンコ玉約一五〇個宛を不正に流出させた上、これを正当な方法によつて取得した九三〇個宛を一緒にして同店員高久きくに提出し、各回に煙草新生四〇個と交換させて、いずれもこれを交付させたという事実を認定することができるのである。すると、玉二七個につき新生一個の割合で交付させたことになるわけであるが、この場合に欺詐罪は不正な方法によつて取得した玉一五〇個の対価として交付させた部分についてのみ成立すると解すべきものであることは論旨第一点及び第三点において主張するとおりである。しかるに、原判決は事茲に出でず、夫々新生四〇個全部について被告人に詐欺罪の責任を負わしめたのである。これは、まさに、事実の誤認にもとずく違法な措置であつたといわなくてはならない。すなわち、被告人は玉一五〇個をもつて新生五個と端数玉一五個を正当な方法によつて取得した玉の中の一二個と併せて更に新生一個を交付させた計算になり、この一個を右五個に加えた合計六個が被告人の各詐欺罪における取得物件であつたわけである。それで、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなので、論旨第二、三点は理由あるものというべく、原判決はとうてい破棄を免れない。