東京高等裁判所 昭和29年(う)1270号 判決
被告人 林順石
〔抄 録〕
一、論旨第三点について。
原判決書をみるに、原判決の認定した判示第一の(1)及び判示第一の(2)の(イ)(ロ)の三個の犯罪事実は、ともに刑法第四十五条前段の併合罪として処断するを要し、そのためには、同法第四十八条第一項をも適用しなければならない関係にあるものと認められるのに、原判決には、同条第一項の適用を明示していないことは所論の指摘するとおりである。しかしながら、右刑法第四十八条第一項のような刑法総則の規定は、事実上これを適用していることが判文上認められる以上、必ずしも、形式的にこれを明示しなければならないものではないと解すべきところ、原判決書の記載に徴するときは、原判決は、その主文第一項において、被告人を懲役十月罰金四千円に処しており、その適条の項において、その判示第一の(2)の(イ)(ロ)の各犯罪事実につきいずれも罰金刑を選択した上、刑法第四十五条前段、第四十八条第二項を適用して罰金刑についての併合罪加重をしたことが示されているのであつて、右の主文第一項と理由中の適条の項とを対比するときは、原判決においても、その認定判示した三個の犯罪事実の間に刑法第四十五条前段の併合罪の関係があるものとし、事実上同法第四十八条第一項をも適用して、窃盗罪の懲役刑と覚せい剤取締法違反罪の罰金刑とを併科したものであることが判文上認められない訳ではないから、右刑法第四十八条第一項の適用を形式的に明示しなかつたからとて、原判決に所論のような理由不備の違法があるものということはできない。論旨は理由がない。
二、同第四点について。
原判決がその理由において、判示第一の(2)の(ロ)の事実認定の証拠として、押収にかかる証第一号の注射液五本及び篠田勤作成の鑑定書(林順石に対する分)を挙示していることは所論のとおりである。而して、所論は、右鑑定書において鑑定の資料としたアンプルは、右証第一号の注射液五本中の二本だけであつて、他の三本のアンプルの内容が覚せい剤であることを認定するには、右鑑定書のほかに更に他の証拠を要するものであるから、原判決がかような証拠もないのに、右鑑定を経ない注射液の存在までも証拠として挙示したのは、鑑定書の記載とくいちがい、従つて理由のそごであると主張するのであるがしかし、同時に同一場所同一状況下に外形を全く同じくする多数のアンプル入注射液が存在したような場合には、その全部につき一々その内容を鑑定しなくても、適宜そのうちの一部につき内容を鑑定した結果が覚せい剤注射液であると認められるときは、その鑑定の結果と残りの右鑑定を経ない分の注射液の存在とをそう合して、右鑑定を経ない分の注射液も亦鑑定を経た分の注射液と同じ覚せい剤注射液であると推認することは、経験則にも採証の法則にも違反せず、適法であるといわなければならない。今本件についてみるに、原判決はその理由において、判示第一の(2)の(ロ)として、被告人が法定の除外事由がないのに覚せい剤二CCアンプル入注射液八本を所持していたものである旨の事実を認定判示しているのであるが、記録によれば、右八本のアンプル入注射液は、当初「ホスピタン」と標示のもの一本と、無標示のもの七本とであつて、司法警察員においてこれを領置したが、その後の捜査段階において、司法警察員が、右八本のうち「ホスピタン」と標示のもの一本と、無標示のもののうちの二本とをとり、これを資料として前示篠田勤にその内容を鑑定させたところ、右鑑定書のとおりいずれも覚せい剤取締法第二条所定の覚せい剤であるという結果をえたものであり、右鑑定を経ない残りの無標示のもの五本は、そのまま領置してあつたものであつて、これが原判決挙示の前示証第一号の五本であることが認められる(この点につき所論は、鑑定の資料となつた二本は右証第一号の五本のうちであるといつているが、これは誤解であると思われる。)のであるから、原判決が右八本の所持の事実を認定するにあたり、被告人の原審公廷供述その他の証拠と共に前示証第一号注射液五本の存在と右鑑定書の記載とを罪証に供したことは適法であるというべく、しかも、原判決挙示のこれら関係証拠をそう合するときは、十分に右判示事実を肯認することができるのであるから、原判決には所論のような理由そごの違法があるものということはできない。論旨は理由がない。