東京高等裁判所 昭和29年(う)160号 判決
被告人 朝沢武夫
〔抄 録〕
一、論旨第二点及び同第四点について。
刑事訴訟法第三百三十五条にいわゆる証拠の標目というのは、これによつて犯罪事実を証明するに足る証拠資料を指称するのであることはまことに所論の通りである。而して多数の犯罪事実について、有罪の判決をする場合に於て、証拠の標目を表示するには、いかなる証拠でいずれの犯罪事実を認定したものであるかが一見して明瞭であるように判示することはまことに望ましいことではあるが、同法条の趣旨に徴すれば、必ずしも右のように認定事実と引用証拠とを逐一対照的に列挙しなくても、判決に引用された各証拠の内容を綜合することにより、判示各犯罪事実が認定せられる限り有罪判決の証拠理由として毫も欠けるところがないものと解するのを相当とする。殊に本件事案のように多数の犯罪事実が相関連し、ある一つの証拠が、いくつもの事実に互つて関係を有しているような場合には同一の証拠を各種認定事実毎に一々重複引用する煩に堪えないばかりでなく、各証拠の全趣旨を綜合してはじめて認定し得られる事実さえなしとしないから、むしろ綜合認定による方が適当であるともいえるのである。原判決は原判示事実認定の証拠として滝沢登茂平の検察官に対する第二回供述調書以下八項目の証拠書類又は証拠物を列挙引用しているが、その引用にかかる各証拠の内容と、原判決認定事実とを対比するときは、いずれの証拠のいかなる部分でいずれの事実を認定したものであるかが自ら明白である又原判示各使用にかかる印紙について、その消印を除去したものであることを被告人が認識していたことは、原判決挙示の証拠によつて認められる。原判決には所論のような理由を附しない違法もなく、また理由にくいちがいのあることも認められない。論旨はいずれも理由がない。