東京高等裁判所 昭和29年(う)2032号 判決
被告人 磯貝六朗 外
〔抄 録〕
論旨第一点について。
所論は、被告人等は居村高瀬村が昭和二十八年一月村長選挙以来現村長派と前村長派にわかれ、その間に不明朗な空気ができ村政上面白からざる状態であり、且つ、居村にも育英事業の必要が痛感されていたので原判示雋友会高瀬村支部を設立しこれにより両派を統合し村政の円滑化を計らんとする目的の下に共産党以外の政党政派に関係する者もその区別なく参加を求め同年三月二十三日その支部発会式を挙行したものであり、本件問題となつている同月二十日被告人磯貝六朗方における準備会もその趣旨の会合であり全く他意はないものである。そして判示選挙の直前でもあるので被告人等は特に誤解を避けるため中島雋吉側に選挙とは絶対に無関係なることの確言を得て事を運んだものであり、本件起訴は右のうち準備会のみを捉えて選挙違反なりとするものであつて原判示第一事実の認定は全く重大な事実誤認であると主張するのである。よつて按ずるに、原判決挙示の証拠によれば、原判示第一の酒食饗応の犯罪事実を肯認するに十分である。すなわち、右証拠によれば、被告人等は所論のように育英事業等を目的とする雋友会高瀬村支部の創設を企て、これに共産党を除きその政党政派を超えて多数村民の参加を求め新旧村長両派の派閥争を解消して村政の明朗円滑化を計りあわせて必要を痛感される子弟のための育英事業の発展を主たる目的としてその創設準備に着手するとともに、副次的にこれによつて当時既に間もなく施行さるべき参議院選挙に立候補を予定していた右雋友会の出資者である中島雋吉の当選を得る目的の選挙運動をする意図をも有しこれに着手したものであること、右準備会において参集した原判示約四十名の村民の面前において一応形式的に主たる目的である雋友会創設に関する議事をすすめるとともに特に列席した中島雋吉の妹中島智子が挨拶し「兄に代つてお願いする。近く参議院選挙に立候補するからよろしく」という趣旨の言葉を述べ、その直後において「今の言葉は行き過ぎであるから取り消す」といつていること、右議事終了後宴会に移り原判示四十名に酒食を供したのであるが予めこの点については被告人等において形式的に外形をととのえる為会費百円の懇親会ということにして実質は会費はとらないで御馳走することを打ち合せ酒肴も準備しておき、未だ金員を受領するに先き立ちその領収書を作成して交付し恰も各出席者から会費を徴収したかの如く装つて表面を糊塗しようとしていたこと、右飲食した人々も前記中島智子の言葉その他被告人等の言動により前記中島雋吉の前記選挙について当選をするように運動したり投票したりしてくれと依頼する趣旨で饗応されるものであるということは十分了解していたこと等の事情を窮い知ることができるのである。そうしてこのような場合、たとえ、主たる目的が他に存したり或は表面には他の事柄に藉口していても暗黙の裡又は以心伝心で了解されようとも、いやしくも、当事者が当選を得せしめる目的で選挙人や選挙運動者に対し、投票取りまとめまたは投票の報酬の意図をもつて相手方においてその意図を了解した状態の下において酒食を供するにおいては公職選挙法第二百二十一条第一項第一号違反の刑責を免れるものでないことは当然であるのだから原判示の如く認定判示することは洵に相当であつて些かも誤つていない。記録を精査し、これに当審で事実の取調としてした証人尋問の結果に徴しても原判決の事実認定には何らの過誤あるを認め得ないし、また所論のように原審が弁護人申請の証人を採用尋問しなかつたからといつて直ちに審理不尽をもつて論ずべきものでもなく、原審審理の跡を検討してもその違法あるを見ない。所論は要するに原審の措信しなかつた自己に有利な証拠のみに立脚して原審の事実認定を攻撃するに帰し採用するかぎりでない。論旨は理由がない。