東京高等裁判所 昭和29年(う)204号 判決
被告人 飯田留次郎
〔抄 録〕
論旨第一点について。
しかし被告人が受け取つた金千円が労務賃だとして、選挙運動に従事する労務者に正当な報酬として支給できる金額やその必要とする実費から算出して決定されたとも認められないし、被告人が引き受けたビラの枚数、その貼布区域や、それに要すべき時間から考えてみて、これを労務賃と解するには金千円は高額に過ぎるものというの外はない。又開票立会人は投票の効力について意見を求められる場合もあらうし、これを以つて単純な機械的労務を提供するに過ぎない労務者と見ることはできないから、法律はかかる投票立会人に対し労務者並みに報酬を与えることを認めてはいないのである。それ故被告人がこの千円をビラ貼りや開票立会の労務賃だとする原審公判廷の供述に対して信憑力があるとは考えられないし、原審証人三村勇、大金六郎や被告人の検察官の供述調書こそ任意性のある且つ信憑力にも十分なものとしなければならないのであり、この事は三村大金両名が当時勾留中で心神に相当の打撃を受けていたことや被告人が傷痍軍人で肉体的に所論のような状況にあることを考え併せても結論において何等異る点をみない。なるほど大金六郎の検察官に対する供述調書がまことに尨大なもので到底一日だけで同人の供述を録取したとは認められないが、これはその以前から取調べられていて、その供述しているところをまとめて唯一回の供述調書が作成されたものと認められし、このような調書が違法となる根拠は少しも認められない。それ故原審が右検察官の供述調書を証拠に採用し、被告人の受取つた金千円が投票並びに投票取纏の報酬と認定したのは当然で、所論の如き審理不尽や事実誤認は存しないから論旨は理由がない。