東京高等裁判所 昭和29年(う)2153号 判決
被告人 佐藤純雄
〔抄 録〕
論旨は、原判決が被告人に対し懲役四月(未決勾留日数三十日通算)の実刑を科したのは刑の量定が重きに過ぎ憲法第三十六条の禁止する「残虐な刑罰」に当ると主張する。よつて考察するのに、憲法第三十六条にいわゆる残虐な刑罰とは、不必要な精神的、肉体的苦痛を内容とする人道上残酷と認められる刑罰を意味するのであつて、事実審裁判所が普通の刑を法律において許された範囲内で量定した場合において、それが被告人の側から観て過重の刑であるとしても、これをもつて直ちに所論のごとく憲法にいわゆる「残虐な刑罰」ということはできない。これを本件について観るのに、原判決の認定した事実は被告人が昭和二十八年九月二十六日頃から同年十二月八日頃までの間四十一回に亘り六十七名を欺罔して金員合計約十万八千四百五十円を騙取したというのであり、原審はその各所為を刑法第二百四十六条第一項に該当し併合罪の関係にあるものと認め、同法第四十七条本文第十条に則り法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役四月に処したものであるから、その間に何等違法の廉はないのみならず記録を精査し右各犯行の動機、態様、被告人の経歴、年令、境遇等諸般の情状に照しても、原審の刑の量定を目して叙上の趣旨において残酷な刑罰であるとは到底これを認め難いので、原判決をもつて憲法違反の裁判であるとする論旨は採用すべき限りではない。
しかして記録によれば被告人は昭和二十八年十二月二十四日原審において別件詐欺被告事件(同年(わ)第六五五号)について懲役十月に処せられ三年間その刑の執行を猶予せられ、右判決は昭和二十九年一月八日確定したものであること、本件につき原審が認定した詐欺の事実はすべて右確定判決以前の所犯であつて、右確定判決を経た罪と刑法第四十五条後段所定の併合罪の関係に立つものであることが認められるところ、両者は、その動機を一にし、その態様において類似する一聯の犯行であつて量刑上考慮すべき情状を共通にするものであることが記録上窺知し得られるから若し両者が同時に審判されていたならば一括してその刑の執行を猶予し得たであろうと思料されないではないしかつ本件における所論の如き諸事情就中犯行後被告人は改悛していること、その後監督者を得て正業に従事し再犯の虞のないこと、家庭の経済的情況、被害者の感情が融和したこと等を参酌勘案すれば、被告人に対し本件についても、刑の執行を猶予して更正の機会を与えるのを相当と認めるので、被告人に懲役の実刑を言い渡した原判決の量刑は結局重きに過ぎ、量刑不当の論旨はその理由があるに帰する。
註 本判決はいわゆる余罪として刑法第二五条第一項により懲役四月執行猶予五年に処している。