東京高等裁判所 昭和29年(う)2977号 判決
被告人 酒井一
〔抄 録〕
覚せい剤の製造行為と、これによつて製造された覚せい剤を製造者自身が所持する行為との関係は、その所持は右製造から生ずる当然の結果であることは所論のとおりであつて、製造とその製造されたものの所持とは一連の包括的所為と認めるべきものである。故に製造の事実を認めれば、当然その製造されたものの所持はこれに包含されるべきものであるから、格別にこれの所持を認めるべきものではないのである。所論は右製造とその所持は手段結果の関係にある旨主張するけれども、これは当らず右のとおりであるから包括一罪をもつて論ずべきものと認める。
であるから覚せい剤の原末に水等を加えて液体にする覚せい剤の製造は、原末の所持とその製造との二罪を認定すべきものではないのであるが、原末の一部分を液体にし、その残余の部分はなお原末として所持する場合には、液体とした部分は覚せい剤の製造行為であり、原末として所持する部分は覚せい剤の所持であるから製造と所持の二罪を構成することは何等論議の余地のないところである。而して原判決は原末の一部を液体に製造した事実と、その残余の原末を所持していた事実とを認めているのであつて、決して液体に製造された、原末の所持と、これを液体に製造した事実とを認定しているものでないことは原判示事実を一読すれば自明のことである。而して原判示事実は原判決引用の証拠によれば十分これを認めうるのであり、原判決がその認定した犯罪事実を刑法第四五条前段の併合罪であると認定したのは正当であつて、原判決には所論のような法令適用の誤は存しない。