東京高等裁判所 昭和29年(う)302号 判決 1954年7月19日
控訴人 被告人 神宮政雄
弁護人 高橋寿一
検察官 沢田隆義
主文
原判決中被告人神宮に関する部分を破棄する。
被告人神宮を懲役壱年弐月に処する。
原審における未決勾留日数中参拾日を右本刑に算入する。
但し、本裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人高橋寿一提出の控訴趣意書記載のとおりであるからここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。
論旨第二点について。
しかし前掲第一回公判調書によれば、原審が本件を簡易公判手続によつて審判する旨の決定をしたことが明白である。しこうして簡易公判手続によつて審判をする旨の決定があつた事件の証拠については、伝聞証拠と証拠能力の制限に関する刑事訴訟法第三百二十条第一項の規定はこれを適用せず(同条第二項)、証拠調は、裁判所が公判期日において適当と認める方法でこれを行うことが出来る(同法第三百七条の二)のであるから、原審が検察官証拠申請書記載の各証拠書類について、被告人又は原審弁護人に対し、これを証拠とすることに同意するかどうかの意見を求めず、従つてその結果(刑事訴訟規則第四十四条第一項第二十二号の事項)を公判調書に記載しなかつたのは当然の措置というべく、記録を精査しても被告人又は原審弁護人が該証拠書類を証拠とすることに異議を述べた形跡は認められずその他の点においても原審の訴訟手続には法令違反の点はいささかも存しない。論旨は理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 花輪三次郎 判事 山本長次 判事 栗田正)
弁護人の控訴趣意
第二点原審判決は訴訟手続上に法令の違反がありその違反は判決に影響を及ぼすことが明白である。
本件記録を精読するに昭和二八年十二月二十一日に於ける公判調書中「証拠調 別紙検察官の証拠申請書記載ノ通リ」とのみ記載されて居り、同調書中及別紙検察官の証拠申請書中は勿論其他一件記録のどこにも右検察官申請の証拠に対し被告人及び弁護人の右証拠に対する同意、不同意の記載がない。刑事訴訟規則第四十四条に依ればその(二十二)に法第三百二十六条の同意は公判調書に記載されなければならないと規定されているが本件公判調書には之が記載されていない。右記載がないと言ふことは検察官の申請証拠に対し被告人及び弁護人が同意したか不同意であつたか不明のものであり右が訴訟手続上の法令に違反していることは明白でありこの違反が判決に重大な影響を及ぼすことも明白である。
(その他の控訴趣意は省略する。)