東京高等裁判所 昭和29年(う)3054号 判決
被告人 渡辺一正
〔抄 録〕
次に所論は、原判決は被告人に対し金二万円の追徴を命じているが、仮りに金二万円が被告人の供与を受けた利益であるとするも、原審は現金二万円を被告人の所有物として領置しているのであるから、これを没収すべきであるに拘らず追徴を命じたのは違法であると主張する。原判示の金二万円は同判示の如き趣旨の下に被告人が高木高次から供与を受けたものであることは前記認定のとおりであるところ、被告人の司法警察員に対する第二回供述調書、小林継太郎名義の任意提出書、領置調書の各記載によれば、被告人は四月二十七日頃前記供与を受けた二万円の中約千五百円位を飲酒に使用したが、その後関係者等が検挙されたことを聞いたので、右の金員を返還するため小林継太郎から一万円を借り受けてその不足分を補充して二万円となし、小林から封筒を貰い受けてこれに納め同人に預けたこと小林はこれを警察署に提出したので警察署においてこれを押収し、検察官はこれを証拠物として原裁判所に提出したものであることが認められるから、右押収にかかる紙幣全部が被告人の供与を受けたものに該当しないことは明らかであるのみならずそのいずれがこれに該当するものであるかもこれを区別することは困難である。かくの如くそのものが特定していることが明らかでない場合には、仮りに金員が押収されているとしても没収できない場合に該るものとしてその金員を追徴しなければならないものと解する。(最高裁判所大法廷昭和二十三年六月三十日判決判例集二巻七号七七七頁参照)故に原判決が被告人に対し金二万円を追徴したのは正当であつて、所論の如き法令の適用に違反するものということはできない。この点に関する論旨も亦理由がない。