大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和29年(う)3431号 判決

被告人 玉木熊蔵 外二名

〔抄 録〕

弁護人の控訴趣意一、及び四について。

原判決の認定した被告人木暮準一の判示第二の横領の事実も亦原判決引用の証拠によりこれを認めるに十分であり、記録を精査検討し、当審における事実取調の結果に徴しても原判決の右事実の認定が所論のように誤認であることを窺うことができない(原判決添附別表第二表5の補償額三七、五七三・11の補償額三五・七八六とあるのは原判決の引用する証第二六号進達書綴中昭和二五年一二月一一日附信濃川工事事務所長、寺井三郎の局長末松栄宛地上物件移転契約関係書類進達と題する書面により前者は五七、五七三、後者は五五、七八六の誤記であることが明白である)すなわち原判決引用の証拠によると、被告人木暮準一は昭和二五年一二月頃畠山清外五九名から國(建設省関東地方建設局支出官)が同人等に支払うべき信濃川改修工事所要買収土地上の物件移転料の請求、受領に関する委任を受け同月末頃國から代理人たる同被告人に送金された畠山清外原判決添附別表第二表記載の一八名に支払うべき工事補償費である右地上物件移転料合計一九三万二七九四円を受領保管中そのうちがら擅に自己の意の儘に支配費消することのできる資金を手許に保留することを企て、同月末頃信濃川工事事務所において右畠山清外一八名に対し、同人等に支払わるべき真実の補償額を告知しないで、右別表第二表交付額欄記載のとおりの金額が真実の補償額であるように申向け、合計一四四万六六七四円位を交付し同人等をしてそれぞれ真実の補償額を受領したものと誤信させ、金額の記載のない領収書に捺印させ、因て真実の補償額との差額合計四八万六一二四円位を自己の手許に保留して領得を完成したものであることを認めることができるのである。原審第九回公判調書中証人荒井力、同松田弘俊の供述記載によると昭和二五年七月頃見返資金による信濃川改修工事を施行することが決定されたので、信濃川工事事務所において草生津築堤工事を行うため測量調査をした工事所要土地の買収、地上物件の移転等の工事補償費の折衝が開始されたが、補償額の確定は時日を要する見込であつたので、土地、家屋の所有者等から移転に要する費用等の立替支払を要望され、信濃川工事事務所長もこれを容れて長岡市長に金融方を依頼した結果、同市長も見返資金工事に協力する立場にあつた関係上、同年八月頃同所長に三〇〇万円を貸与するに至つたので同所長はこれを右土地建物所有者等に移転費用として利用させたことを認めることができるけれども、右金三〇〇万円によつて畠山清外一八名が所論のように前記工事補償額の全額の支払を受けたものであることは記録上これを認めるべき証拠はない。しこうして横領罪の成立に要する不法領得の意思とは他人の物の占有者が委託の任務に背いてその物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思をいうもので、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要とするものではないのであるから、被告人木暮が前記の通りの意図の下に差額合計四八万六一二四円位を畠山清外一八名に無断で自己の手許に保留したのは、たとえ私用に費消することを目的としたものでないとしても不法に領得する意図を発現したものと認めることができるのである。又同被告人が右金四八万六一二四円位を所論のようにその儘保管し置き自己の後任者に引継を了したことも亦これを認めるべき証拠はない。しからば原判決の事実誤認又は採証の法則違反を主張する論旨は理由がない。

(近藤 吉田作 山岸)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!