東京高等裁判所 昭和29年(う)3489号 判決
被告人 伊藤昭
〔抄 録〕
弁護人の論旨第一点について。
本件については、原審において、被告人及び原審相被告人西村末吉は、いずれも貧困を理由として国選弁護人の選任を求め、裁判官は、被告人に対して弁護士工藤祐正を、西村に対しては弁護士箭柏卯行をそれぞれの国選弁護人に選任したところ、第一回公判期日において、右箭柏弁護人不出頭につきこれを解任し、西村のために前示工藤弁護士を国選弁護人に選任したため、同弁護士は、右両被告人の弁護人として終始審理に関与したものであることは、所論のとおりであつて、所論は、本件において一人の弁護人をして両被告人の弁護をさせたことは、日本国憲法および刑事訴訟法の保障する国選弁護人制度の趣旨に反し被告人の防禦権を侵害したものであつて違法である旨主張するにより、案ずるに、利害相反する数名の被告人につき同一の弁護人をして弁護させることが違法であることは、刑事訴訟規則第二十九条第二項の規定の解釈上疑を容れないところであるが、被告人の利害が相反しないときは、同一の弁護人に数人の弁護をさせることができることは、同条項に明定するところである。そこで記録を調査するに、本件は、所論も認めているように、犯罪の成否について争がある訳ではなく、ただ犯行の計画及び犯行時における役割等犯情に関する点について両被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書の供述記載中に、多少のくいちがいが発見されるに過ぎない程度であり、且つ、それらの点についても、原審公判廷における両被告人の供述としては、別段に争いやくいちがいがあつた訳ではなかつたことが認められるのであるが、かかる場合においても、原審としては、やはり当初にしたように、各被告人につき各別の弁護人を選任して弁護させることが適当であり、望ましいことであつたとは考えられるけれども、しかし、本件のような程度の案件においては、両被告人のため同一の弁護人をして弁護させたからといつて必ずしも所論のように日本国憲法及び刑事訴訟法の保障する国選弁護人制度の趣旨に反し被告人の防禦権を侵害した違法があるものということはできないから原裁判所の前示の措置をもつて原判決破棄の理由があるとする論旨は到底採用に値しない。