大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)3525号 判決

被告人 宇都宮貞夫

〔抄 録〕

A、B両弁護人共同の論旨第一点について。

原判決が、その理由において、被告人が、昭和二十八年八月五日午後六時二十五分ごろ、東京都千代田区永田町一丁目三十四番地先参議院第二通用門附近の道路において、いわゆる「スト規制法案」反対運動のため集合していた群集を、車道から歩道に移すため、交通整理中の警視庁巡査部長矢ケ崎大六に対し、暴行を加えてその公務の執行を妨害すると共に、右暴行により同人に傷害を与え、また、右の事実を現認した警視庁巡査蒲勇が、被告人を公務執行妨害の現行犯人として逮捕せんとした際、同巡査に暴行を加えてその公務の執行を妨害すると共に右の暴行により同人に傷害を与えた旨の事実を認定判示していることは、所論のとおりである、然るに、所論は、原判決の認定にかかるいわゆるスト規制法案(電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律案)なるものは、労働者の基本的人権を侵害し、憲法第二十八条に違反するものとして、当該事業関係労働者は勿論、他産業の労働者からも反対されていたものであつて、本件労働者の集合は、右法案が参議院で決議されることに対する反対陳情の示威運動であり、憲法第二十八条の規定によつて保障されている労働者の権利の行使であつたから、本来道路交通取締法の規定による交通整理の対象とならないものであるばかりでなく、本件労働者の示威運動は、道路を通交する歩行者ではなく、道路上に停滞している労働者の集合であつて、道路交通取締法第五条による交通整理の対象とはならないものであるから、原判示矢ケ崎巡査部長の行つた交通整理は、適法な公務の執行ではないものというべく、従つて、仮りに、被告人に原判示のような行動があつたとしても、公務執行妨害罪は成立しないし、更に、その行為を現認して、被告人を公務執行妨害の現行犯人として逮捕しようとした原判示蒲巡査の所為も、また適法な公務の執行ではないから、これに対してなした被告人の行為が、公務執行妨害罪を構成するいわれはないのに、原判決は、前示のように、いずれも公務執行妨害罪が成立する旨を認定しているのであるから、原判決には、この点につき、憲法第二十八条に違反するか、または、その解釈を誤り、道路交通取締法第五条の規定に違反した違法があつて、その違法が判決に影響を及ぼすことが明らかである旨を主張するにより、案ずるに、原判示日時場所における労働者の集合が、所論主張のような意図のもとに行われた労働者の集団示威運動であつたものと推認し得られることは、所論のとおりであるけれども、原判決挙示の証拠に徴するときは、右労働者の集団示威運動は、昭和二十五年七月三日東京都条例第四十四号に違反し、公安委員会の許可を受けずに行われた不適法なものであつて、もとより、道路交通取締法等の規定による交通整理の対象となるものであつた上に、原判示矢ケ崎巡査部長は当日上司の命により、その職務の執行として、原判示交通整理を行つたものであつて、その執行方法にも、別段違法の点もなかつたものであることが認め得られるのであるから、同巡査部長の行つた原判示交通整理は、適法な公務の執行であつたと認めるのが相当であるといわなければならない。そうだとすれば、このような公務執行中の同巡査部長に対し、原判示のような暴行を加えた被告人の原判示第一の所為が、公務執行妨害罪を構成することは、明らかであるというべく、従つて、この事実を現認した原判示蒲巡査が、被告人を公務執行妨害の現行犯人と信じて、これを逮捕しようとした所為も、また適法な公務の執行行為であつて、これに対して、原判示のような暴行を加えた被告人の原判示第二の行為により、公務執行妨害罪の成立することも、論を俟たないところであるといわなければならない。してみれば、原判決が、被告人の原判示第一、第二の各所為が、いずれも公務執行妨害罪を構成する旨を認定したことは相当であつて、これがため、原判決に所論のような憲法第二十八条に違反し、または、その解釈を誤り、道路交通取締法第五条の規定に違反した違法があるものということはできない。論旨は理由がない。

(中西 山田 石井謹)

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