東京高等裁判所 昭和29年(う)370号 判決
被告人 梁炳[糸民]
〔抄 録〕
凡そ窃盗罪は不正に領得する意思で他人の支配内にある財物をその支配を排除して自己の事実上の支配内に移すことにより既遂となるものであつて、たとえ、その財物の支配が更にその他人から他の財物を領得する一手段であるような場合においてもその結論を異にするものではない。今本件についてこれをみるに、原判決挙示の証拠によれば、被告人は、原判示日時場所においてパチンコ遊技を試み、パチンコ機械に張つてある前面のガラス板を押し上げ、煙草の銀紙を巻いたパチンコ玉を入れてアウト穴を塞いだ上、順次打ち出した無駄玉を積み重ね当り穴にとどく高さに達せしめ、その後は打し出した玉をすべて当り穴に入るようにして遊技を続け同機械から当り玉を出す不正な方法で右遊技場経営者樋口勇所有のパチンコ玉計百四十六個位を窃に領得しこれをもつて更に所定の景品と引き換えようとして同所の景品引換所に行つた際その不正を知つた右樋口にとがめられその引換を拒否された事実を認めることができる。
そこで所論のように被告人が前記方法によつて取得した玉をもつて景品と引換えるすなわち景品を取得することを企図しこれを窮極の目的としていたとしても、被告人は前記のような不正な方法で右樋口の支配するパチンコ玉を自己の事実上の支配内に納めたものであつてこれすなわち不正領得の事実に外ならぬのであつて、その自己の事実上の支配内に納めた時に窃盗は既遂となり被告人はその刑責を負わねばならない。所論にかんがみ記録を精査するも原判決には何等所論のような事実誤認の過誤乃至法令適用の誤りの存しないは勿論審理不尽の廉あることを発見できない故論旨はいずれも理由がない。