東京高等裁判所 昭和29年(う)524号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔争点〕原審は犯行当時犯人が飲酒により心神喪失の状態であつたとしたのに対して検事は控訴の申立をしてこの点を争た事案である。当審では犯人の犯行当時の精神状態につき原審認定には誤認があるとして破棄し心身耗弱を認定している。以下の判旨はその点には関係なく弁護人の答弁に対する説示としてなされたものである。
〔判旨〕前記(一)(二)の被告人の窃盗の事実を認定するについて引用した証拠によれば、被告人は大型リヤカー又は中古青塗自転車を自己の所持に移した際不法領得の意思を以てしたことを認めることができる。すなわちこれらの証拠によると被告人は昭和二七年四月頃靴の行商等を始めたが、損失を生じたため心楽しまなかつたので飲酒を好むようになり、小遣銭に不自由を感ずるに至つたところ、大型リヤカー又は自転車を売却処分して小遣銭を調達しようとして、大型リヤカー又は自転車を深夜所有者又は管理者の隙に乗じ自己の所持に移したことを認めることができるのであるから、被告人に右リヤカー又は自転車を不法に領得する意思があつたことは明らかである。しこうして被告人が右リヤカー又は自転車を自宅に移した後間もなくリヤカーを切断し、自転車を解体したことは前掲の証拠によつて認められ、その切断又は分解は後日の組立を予想し得ない程度のものであり、且つリヤカー又は自転車を自宅に移した後被告人が昭和二八年二月三日逮捕取調を受けるまでの間これを他に売却し又は質入れする等の処分をした形迹を認め得られないことはいずれも所論のとおりであるとしても、証拠(省略)によると被告人は右リヤカーは切断して自宅物置の天井裏に、自転車は解体して自宅蚕室の天井裏にそれぞれ隠匿して犯跡を隠蔽していたものと認められるのみならず、窃盗罪の成立を要する不法領得の意思とは権利者を排除し他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用又は処分する意思をいうものであつて、永久にその物の経済的利益を保持する意思であることを必要としないのであるから、犯行後における所論の各事由は、被告人の不法領得の意思の存在を否定するに足らないものである。それ故論旨は理由がない。