東京高等裁判所 昭和29年(う)619号 判決
被告人 隅田篤之
〔抄 録〕
一、第三点および第四点について。
論旨は、要するに、当今わが国において言論、出版その他表現の自由は国民の基本的人権の一面として憲法第二一条を以て保障されており絶対に制限することをゆるされないものである。故に公職選挙法第一四二条において公職選挙運動のために頒布使用する文書の種類を通常葉書に限定したのは、それ自体違憲無効の規定であり、従つて右選挙法規を適用処断した原判決には法令適用上の誤りありというにある。
仍つて、按ずるに、およそ言論、出版その他の表現の自由も所論の如く無際限なものではなく、つねに公共の福祉に反せざる程度および態様において表示される場合にのみ認容されるものと解すべきは憲法第一二条等の規定の趣意に照して当然のことに属する。而して既に公選による代議制度を採る以上その代議員選挙の公正を期するため選挙方法としての言論や文書頒布等に合理的なる若干の制約を加えることは結局公共福祉保持の趣旨に副うものというべく、従つて斯る内容を有する法律は別段憲法第二一条その他憲法の条規に違背する無効の法規ではない。
而して公職選挙法第一四二条は、之により衆議院議員その他一定代議員の公選に際し、その選挙運動のための文書の用紙の形態および数量等に相当の制限を加えているのは、即ち選挙運動の公平適正に行われることを期するに外ならず、従つて前記理由により同規定は特に憲法第二一条に違反する無効の法規ではない。故に、原判決が右選挙法の条規を適用処断したというのみでは所論のように法令の適用を誤つた無効の裁判となるものではない。論旨は孰れも理由がない。