大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)648号 判決

被告人 小笠原達夫 外

〔抄 録〕

弁護人論旨第一。

本件記録によれば、被告人小笠原達夫に対する昭和二八年九月二一日附起訴状には有価証券偽造並びにその行使の事実のみが記載されていて、詐欺の点は記載されていなかつたのであるが、同年一一月五日附訴因並びに罰条の追加変更請求書(論旨には同年一一月五日附追起訴状と記載されているがこれは上記を誤記したものと認める。)によつて詐欺の事実(訴因)が追加されたものであることは本件記録によつて明白である。

而して原審検察官が有価証券偽造、同行使の起訴事実に対し詐欺の事実を別個に起訴せず訴因罰条を追加したに止るのは、この詐欺の事実は右有価証券偽造、同行使とは互に手段結果の関係にあり牽連一罪として処罰すべきものと認めたからによるものであることはいうまでもないところである。しからば若し右詐欺の事実(訴因)について証明不十分であるときは勿論詐欺の点は無罪たるべきものであるが、一罪の一部分についての無罪であるから通常は理由の部分においてのみこれを説明し、特に主文においては無罪の言渡をしないものであることも所論のとおりである。

しかるに原判決が詐欺の点について主文において特に無罪を言渡したのは所論のように科刑上の一罪に対し誤つて二個の主文を言渡したものと認めざるを得ない。

しかしこの誤は審判の請求のない事件について判決したことにも審判の請求をうけた事件について判決しないことにもならないのであつて、被告人には利益でこそあれ何等不利益を蒙らせていないのである。のみならず、本論旨は結局被告人に対し無罪を言渡した事について不服を唱えるにすぎないもので、被告人の利益の為に為された本件控訴においては元来主張する事を許されないものと認めるべきものである。要するに論旨は採用の限でない。

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