大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)662号 判決

被告人 鶴見藤作

〔抄 録〕

弁護人の控訴趣意第一点について。

原判決がその指示にかかる本件犯罪事実を認定する証拠の一つとして、被告人の検察官に対する供述調書(二通)を引用挙示していることは、原判文上明白であり、記録を精査すると、被告人の検察庁における供述を録取した書面としては、

(一) 昭和二十九年一月二十五日附の検事鶴田正三に対する「弁解録取書」と題するもの

(二) 同年同月二十八日附の同検事に対する「供述調書」と題するもの

(三) 同年二月二日附の検察事務官和田進に対する「供述調書」と題するもの

の三通が存在するに過ぎないことは所論のとおりである。

そこで右(三)の書面は、検察事務官に対する供述調書であることが形式上明白であるから、該調書は原判決が証拠として掲げた検察官に対する供述調書には該当せず、従つて原判決はこの(三)の書面を除外し、その余の(一)及び(二)の各書面を採証した趣旨に解するのが相当である。

しこうして前記(一)の書面は、検察官が被告人(当時被疑者)に対し、逮捕状記載の犯罪事実の要旨等を告げた上弁解の機会を与え、その任意の供述を録取したいわゆる弁解録取書であることはまさに所論のとおりであるが、該書面はその形式及び内容からいつて被告人の検察官に対する供述を録取した書面と認められるものであり且つ刑事訴訟法第三百二十二条の要件を具備するものとして原審において適法な証拠調を経ていることは記録上明白であるから、これを被告人の検察官に対する供述調書として証拠とすることができることは論を俟たないのである。(昭和二十六年(あ)第二、六五〇号、同二十七年三月二十七日第一小法廷判決参照)。

次に前記(二)の書面は、検察官鶴田正三が被告人(当時被疑者)を取り調べ、その供述を検察事務官和田進に命じて調書に録取させ、同事務官において作成した、被告人の検察官に対する供述調書であることは、その形式及び内容からいつて明白であり、その末尾の検事鶴田正三署名欄に、同検事の署名のみあつて、押印を欠いていることは、まさに所論のとおりである。しこうして検察官が犯罪を捜査するに当り、被疑者を取り調べその供述を調書に録取する方法については別段の定めがないから、その検察官が自から録取するか或は検察事務官をして録取させるか、いずれの方式によつても差し支えなく(東京高等裁判所昭和二十六年(う)第一、三八五号、同年七月二十三日判決参照)後者の方法による場合においては、当該検察事務官が刑事訴訟法第百九十八条第四項以下、刑事訴訟規則第五十八条所定の手続及び方式に従つて調書を作成すべきものであつて取調をした検察官はその氏名が調書に表示されているのみで足り、必ずしも検察事務官と共に署名押印する必要はないものと解すべきである(福岡高等裁判所昭和二十七年(う)第一、七三一号、同年十月二日判決参照)。そこで本件供述調書に取調をした検察官である検事鶴田正三の氏名が表示されていること及び検察事務官和田進が前記の手続及び方式に従つてこれを作成したことは、同調書の記載に徴して明白であるから同調書は、被告人の検察官に対する供述調書として作成の方式に何等欠けるところはないし、原審においては刑事訴訟法第三百二十二条の要件を具備するものとして適法な証拠調を経ており、被告人及び原審弁護人から、これを証拠とすることについて何等の異議も述べられなかつたことは記録上明白である。(なお所論は、被疑者の検察官に対する供述調書は、刑事訴訟規則第三十九条第四十二条第一項によりこれを作成すべきものである旨主張しているが、該所論は法令を誤解した結果によるものであつて採用に値しない)。

されば本件記録中には、被告人の検察官に対する適法且つ有効な供述調書が二通(前記(一)及び(二))存在するわけであるから原審の措置には何等違法の点はなく論旨は理由がないといわなければならない。

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