大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和29年(う)760号 判決

被告人 伊藤庄次

〔抄 録〕

論旨第一点について。

所論は、被告人が昭和九年二月十八日生の少年であつたにかかわらず、原審は、これを成人と誤認し少年法所定の手続を経由しないで行われた本件起訴を受理し且つ審理の結果有罪の判決をしたのであるから、その訴訟手続に法令違反があり原判決は破棄を免れないものであると主張するのである。よつて按ずるに、原審竝びに当審証人伊藤ウタ、当審証人市原トミ子の各証言に記録編綴の被告人に対する戸籍抄本の記載を総合考量するときは、被告人は所論のとおり昭和九年二月十八日生の少年(本件起訴当時は勿論原判決言渡の日においても)であつたことを確認するに難くない。尤も本件記録中には、原判決が判示しているように、被告人が昭和八年二月中に出生したもののような伊藤ウタの検察官に対する供述調書被告人の検察官に対する供述調書の各記載が存するのであるけれども、被告人の原審公判廷における弁疏前記証人伊藤ウタ証言に徴せば、被告人が警察署で取調を受けた際、以前被告人において非行があり数度に亘り家庭裁判所において少年法による処分を受けている関係上、今度も少年法による手続に附されるにおいては到底簡単に釈放されないであらうと考え、自分で成年に達していると述べた外、実母たる伊藤ウタに対しても係官に被告人が成年者であるように申し述べるよう依頼したことに基いて伊藤ウタは本件において検察官の取調を受けた際被告人を昭和八年生れの成年者であると述べたものであることを知ることができるのであるから、これらの検察官に対する供述を措信することはできないのである。従つて被告人に対しては検察官としては、少年法の規定に従つて家庭裁判所に送致し同裁判所が刑事処分を相当と認め、少年法第二十条の規定による決定をもつて検察官に送致したときにかぎり、はじめて同法第四十五条第五号前段本文の規定に従つて公訴提起の手続をとらなければならないものである。

然るに、本件記録に徴せば、本件公訴は、右のような家庭裁判所経由の手続をとることなく被告人の少年時である昭和二十八年十月十七日、同月十九日、同月三十一日の三回に亘りいずれも直ちに原裁判所に対し提起せられ、原裁判所もこれを受理して審理の結果、前同様被告人の少年時である昭和二十九年二月十二日被告人に対し成年者として有罪判決を言い渡したことが明瞭である。而して少年に対し少年法所定の手続によらないで公訴の提起をすることは少年が少年法により保護さるべき重大な利益をうばわれる結果となりその量刑の上にも影響するところが多大であり、刑事訴訟法第三百三十八条第四号公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるときに該当するものと解するを相当とする。而して被告人側の故意に出たものであるの故をもつて又は現在被告人が既に成年に達しているの故をもつて、その瑕疵が治癒されると解することもその手続の性質にかんがみ到底許されないところである。

然らば原審としては同条に則り判決をもつて被告人に対する公訴を棄却すべきものであるにかかわらず、この公訴を受理し審判をした原判決は、到底破棄を免れない。論旨は理由がある。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!