大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)804号 判決

被告人 池田顕蔵 外

〔抄 録〕

弁護人の控訴趣意第一点及び被告人池口顕蔵、同中村光蔵の控訴趣意について。

原判決の認定した事実はこれを要するに、八王子税務署は早川初太郎に賦課した昭和二十四年度所得税約金十一万円の滞納処分として同人方の自転車二台、ラジオ受信機、ミシン、机、鏡台各一個、茶ダンス、ベビーダンス各一棹計八点を差押えた上昭和二十五年十二月二十日右物件を同税務署において借用中の株式会社日輪商会倉庫内に引き上げたが、右ベビーダンス内には非差押品である早川方子供の普段着衣類数点が入れられたままとなつていたので、早川方家人が被告人等外二十余名に右子供の衣類引上により向寒の折柄途方に暮れている旨を訴えたところ、被告人等外二十余名は右衣類を取り戻すべく税務署に交渉することとなり、一同相携えて右日輪商会に到り、被告人池口が八王子税務署当該係員に再三電話を掛け日輪商会迄出張を求めたが要領を得ず、かくて平隠に交渉する希望を失うに至つたため、被告人等外二十余名は前記差押品を早川のため実力を以て取り戻すことを共謀し、即時日輪商会代表者の看守する前記倉庫内に故なく侵入し、八王子税務署長が保管していた前記差押品動産八点を右倉庫から運び出して取り戻したというにある。しこうして原判決の引用する原審公判調書中証人宮川清江、同岩根新之助、同上田浩司、同早川初太郎の供述記載によれば、八王子税務署が早川初太郎に対してした昭和二十四年度所得税約金十一万円の賦課、それの滞納処分としての前記動産八点の差押及びこれが公売のため同税務署の借用中の株式会社日輪商会倉庫内にこれを引き上げた処分はいずれも所得税法国税徴収法に準拠してなされた適法行為であり、早川初太郎も亦前記動産八点の差押、引上に際し、その動産が自己の所有物でないとか、引上物件に非差押品があるとか等の異議を述べなかつたことを認めることができるのであつて、早川初太郎に対する右昭和二十四年度の所得税の賦課が同人の同年度の実収入を超える過大な所得額の認定に基いて算出された賦課であることは記録上これを肯認するに足る証拠はない。しかるにたまたま右差押品であるベビーダンス一棹中に非差押品である早川方子供の普段着衣類数点が入れられた儘日輪商会倉庫内に引き上げられ、これについて被告人池口が八王子税務署係員に再三電話を掛け日輪商会迄出張を求めたが要領を得なかつたことはいずれも所論の通りであるとしても、これにより前記動産八点についての差押が直ちにその効力を失うものでないことは勿論であり、被告人等としては、直接八王子税務署に赴いて当該係員に面談して右非差押品である衣類数点の取戻方を折衝する等正規の手続によりこれが取戻を計るべきであつて、これによることを得ない程切迫した衣類取戻の必要性がある状態であつたことは記録上認められないにもかかわらず、被告人等は前記差押品八点全部を実力を以て取り戻すことを共謀して前記のようにこれが保管場所である日輪商会倉庫内に故なく侵入して倉庫内からこれを運び出し取り戻したのであるから、被告人等の所為は刑法第三十七条第一項にいわゆる他人の財産に対する現在の危難を避くるため已むことを得ざるに出でたる行為に該当するものということはできない。しからば被告人等の右所為が緊急避難行為として罪とならないものと主張する論旨は、いずれも理由がない。

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