東京高等裁判所 昭和29年(う)888号 判決
被告人 夫康生
〔抄 録〕
先づ職権で按ずるに、原判決は被告人が同一日時に同一性質の覚せい剤を被告人の自宅と、隣家織田敏夫方に分割して所持していたことを夫々別個の所持と認め、二個の覚せい剤所持罪を認定している。
しかし原判決挙示の証拠によれば、被告人は同一機会に本件覚せい剤注射液二立方糎入アンプル約三千八百三十八本を入手し内約八十八本はこれを自宅に、その余は隣家織田敏夫方に隱匿所持していたものであることを認めるに十分である。しからば所持の場所こそ違つているが、右約三千八百三十八本は一括して同時に所持していたものと認めるべきものでこれを分割して二個の所持と認めるべきものではなく、これを包括して一個の所持と認めるのを相当とする。
よつて原判決は一個の所持罪を誤つて二個の所持罪と認めたもので、明らかに事実を誤認したものといわざるを得ない。しかもこの誤認は判決に影響を及ぼすものであるから、弁護人の論旨については判断を為すまでもなく、原判決は失当のものとして刑事訴訴法第三九七条に則り破棄すべきものとする。