東京高等裁判所 昭和29年(う)913号 判決
被告人 山本静江 外
〔抄 録〕
被告人A同B同Cの各控訴趣意について。
しかし原判決の挙示引用に係る標目の各証拠を綜合すれば原判示の各事実は優にこれを認めるに足り事実誤認の疑は毫も存しない。被告人等が頒布したアカハタ特報なるビラは自由党最期のあがき、堤候補に暗殺計画か!信濃屋舞台にぼう略活動、会場にひそむ白刃の男という標題の下に「前略、こうして平和と愛国の有力候補に対する一人一殺計画が右翼団体によつてすすめられている折から極めて注目すべき小峰柳多(自由)派を中心とした第三区堤候補(共産党)に対するスパイの事実がバクロされ、有力候補堤氏に対する暗殺計画が進められているものと関係者を緊張させている。二十三日堤候補選挙事務所を用をすまして出た某婦人(特に名を祕す)は、筋向いの小峰候補選挙事務所(大信寺)から出て来た小型ハイヤーに呼び止められ、運転手は自動車にのりませんかと話しかけ、あなたは堤さんの事務所から出て来たのですね、何しに来たのですかとしつこく尋ね、婦人を自動車にのせ高崎市の信濃屋旅館(古関幸平氏経営、同氏は小峰候補の参謀長格、戦前極右のテロ団に参加)方に連れこまれそのまま二階の部屋に入れられたがその室には自由党のスローガン、パンフレツトが多数置いてあつた。男は大分面白くなつたと笑顏を作りながら、あんたは何時から共産党に関係した、あんたのバツクには大物がいるんだろう、群馬県の共産党の主なものは誰か等党内の情勢を聞き出しにかかつた。あんたも共産党をぬけて別のいい方へ向けば大物になるのだがとスパイの勧誘など行つたが、とくに彼の女に何度も何度も堤源寿は当選するか当選するかといらだたそうに繰返し繰返し聞き当選するとキツパリ答えるとフーンと深刻に考えこみ、どうして当選するかとしつこくききはじめ堤源寿の選挙事務長は誰だと何回となく堤候補についてさぐりを入れた。(中略)更に二十五日多野、八幡の立会演説中聴衆の中に凶器を用意した男がひそんでおり、明らかに堤候補におそいかかろうとする気配が見えたが、これは事前に探知され場外につき出された事件がおこつた。こうした事実により、伊香保の町長選、甘楽を中心としたマニの闘争等でその支配が根抵からゆらぎ、追いつめられた小峰派売国自由党がさいごの手段として、堤候補にテロでおそいかかる計画をひそかに進めていると見られるに至つた。又この事はアメリカの日本総督マーフイ(スパイの元凶)の手先となつて小峰派が警察と結び党をスパイし弾圧の協力者になつている事をはつきりバクロしたものとして早くも大衆的にふんげきがおこつている。これについて堤候補選挙事務長橋本氏は全国的に有力候補に対する暗殺計画が進められているという。これはその現れだ。売国自由党は今まさにくずれようとしている。今度の選挙でアメリカの思うようになる国会を作ろうとマーフイはやつきになつている。ところが国民はこれを見破つている。党に対するあつ倒的支持におびえた売国奴のこの計画に対し堤候補を先頭に断固闘うと語つた」旨の記載があり、右の文書には共産党候補者堤源寿及びこれに反対する自由党候補者小峰柳太の名がそれぞれ表示せられており、その内容は昭和二十七年十月一日施行された衆議院議員選挙に際し群馬県第三区から立候補した堤源寿を支持し同じく同選挙区から立候補した小峰柳多に反対する趣旨であることは何人にもたやすく理解し得るところであり、被告人等は右のビラを頒布することにより前記堤候補に対する被配布者の関心を喚起し、これが支持をたかめ、もつて同候補者に対する投票の穫得を期待したものであること極めて明白であるから本件ビラをもつて選挙運動のために使用した文書と認むべきは当然である。論旨は本件ビラの内容は単に事実の真相を世間に発表し選挙が公正に施行されるべきことを訴え、公党の候補者が白刃により生命の危険にさらされていることに対す言論による防衛に過ぎず、また共産党堤候補に対して仕組まれた暗殺計画はひとり日本共産党にとつて重大問題であるのみならず日本の国民にとつても極めて重大な問題であるからこれを国民に知らせることは日本共産党の国民に対する当然の義務である、然るに検察当局はかくの如き陰謀に対してはなんらの調査さえしようともせず見向きもしないでひとりわが党の断圧にのみ専念しているのであつて、かく如きは憲法ポツダム宣言によつて保障されている政治活動、自由に対する弾圧であると主張するけれども、本件ビラが選挙運動のために使用された文書であることは前段敍説のとおりであり、単に事実の報道のみを目的とした文書とは到底認めることはできないから原審が被告人等の所為に対し公職選挙法第百四十六条第一項の制限に違反するものとしてこれを処罰したことは相当でありまた公職の選挙が公平に行われるためその言論、出版等による選挙運動に対しても一定の限度を設けることは公共の福祉のため当然の措置であつてこれをもつて憲法第二十一条の保障する言論、出版その他表現の自由を侵すものであると非難するのはあたらない。且つ本件訴訟記録並びに原審において取り調べた証拠に現われている一切の事実を精査しても本件起訴をもつて起訴権の濫用と認めることはできないのみならず、原審の被告人等に対する量刑はいずれも相当であつて重きに失するものとは認められない。各所論はひつ竟独自の見解であつて到底採用することはできない。よつて本件各控訴はいずれも理由がない。