東京高等裁判所 昭和29年(く)10号 決定
よつて按ずるに、原審が抗告人に対する詐欺被告事件につき昭和二十八年一月二十七日保証金二万円を以て保釈許可決定をしたこと、次で同年八月十一日右保釈決定の指定条件に違反したとの理由の下に該保釈を取り消し、前記保証金二万円を没取する旨の決定のあつたことは、本件記録並に抗告人に対する右被告事件記録に徴し明白である。ところで所論の保釈取消決定を見るに、保釈取消の理由としては単に「被告人においてその指定条件に違反したから、これを取り消す」とあるのみで、如何なる指定条件に違反した趣旨であるかは明らかでないが、前記保釈決定書によると、その指定条件として(一)被告人の住居を東京都江東区亀戸町五丁目四十五番地に制限すること(二)逃亡又は罪証を隠滅すると疑われるような行動を避けること(三)召喚を受けたときは正当な事由がなく出頭しないようなことなきこと、なお二十日以上の旅行又は転居する場合には、予め書面で裁判所にその旨を申し出て許可を受くべきことが挙げられており、若しこれらの指定条件に違反するときは保釈を取り消され、保証金を没取されることがあると明示されているのである。右条件(一)及び(三)の趣旨によれば、結局、制限住居を離れた場合は、遅滞なく自ら又は同居人若くは弁護人を介してその旨裁判所に届け出で、又、官憲により身柄を拘束されている場合には別件で保釈出所中であり、現にその公判審理が進行していることを当該官憲に申し出で、以て裁判所の召喚に対しては何時でも出頭できるよう適宜の手続を執るべき義務があるものというべく、たとえ抗告人が昭和二十八年八月十一日の本件公判期日の当時、所論のように別件詐欺事件で逮捕拘禁されていたとしても、抗告人において右指定条件を誠実に履行する意思があつたならば、同年七月十一日の第十一回公判期日に直接告知を受けて知悉していた前記公判期日に出頭できないわけではなかつたのである。して見れば抗告人が右期日に出頭しなかつたのは、結局、正当の理由に基かないものというの外なく、原決定が抗告人の右不出頭を以て保釈の指定条件に違反したものと認め、右保釈を取り消し、保釈保証金の全部を没取したのは究極において正当に帰する。従つて本件抗告は理由がないので、刑事訴訟法第四百二十六条第一項後段に則り主文のとおり決定する。