東京高等裁判所 昭和29年(け)9号 決定
よつて被告人に対する窃盗被告事件記録を調査すると、東京高等裁判所第十二刑事部は昭和二十九年二月五日控訴趣意書提出最終日を同年三月四日とする被告人宛の控訴趣意書差出期間通知書一通の送達を東京地方裁判所執行吏に命じたところ、執行吏山内伴治代理伊藤辰太郎は同年二月十九日被告人の住居地である東京都足立区大谷田町千百八十九番地文仙アパート内において事理を弁識せる同居の妻木田フキに交付して送達を了したこと及び東京高等裁判所第十二刑事部は同年三月二十七日附を以て、刑事訴訟法第三百七十六条第一項同規則第二百三十六条所定の期間内に控訴趣意書の提出がなかつたとして被告人の控訴を棄却する旨の決定をし、右決定は同年四月九日被告人に送達されたことが明らかである。尤も控訴申立人に対する控訴趣意書提出の最終日は、右最終日を指定した通知書が控訴申立人に送達された日の翌日から起算して二十一日目以後の日でなければならないことは刑事訴訟規則第二百三十六条第三項の定めるところであつて、本件被告人に対する控訴趣意書差出期間通知書の送達と提出最終日との間には執行吏の遅延によるとはいえ右法定の期間がなく、従つて右通知の手続は右規則に違反するものではあるが、同条第四項によればかかる場合には、控訴申立人に対する通知書の送達があつた日の翌日から起算して二十一日目の日を最終日とみなすのであるから同年三月十二日が最終日となる訳である。異議申立人等は右通知書が被告人方に送達された当時被告人は妻との間に離婚話が持上り、福島県の実家に行つていて不在であつたこと及び被告人の妻は法規を知らないため右通知書がきたことを被告人に通知しなかつたので被告人は全然これを知らなかつたことを理由として右送達は無効であると主張するのであるが、前段で認定したように被告人に対する控訴趣意書差出期間通知書は被告人の住居において同居の妻であり事理を弁識するに足りる知能を有する木田フキに交付されたものであるから、所論のような事情で被告人が本件通知書が送達されたことを知らなかつたとしても、かかる事由は未だ以て右送達を無効とする事由とはならない、そして控訴趣意書提出の最終日迄及びこれを経過した後にも被告人又は弁護人から控訴趣意書を提出しなかつたことは記録上明らかであるから、被告人の本件控訴を棄却した原判決は正当であつて、本件異議の申立は理由がないからこれを棄却することとし主文の通り決定する。