東京高等裁判所 昭和29年(ネ)1048号 判決
控訴人が訴外古牧寅蔵に対する強制執行として公証人越川道三作成第二〇〇八五号債務弁済履行に関する公正証書に基いて昭和二十八年五月十二日右債務者方において別紙目録記載の物件を差し押えた事実は、当事者間に争がない。
しかるに被控訴人は、右物件は被控訴人が昭和二十七年八月十五日公証人磯貝惟一作成の金銭貸借物件譲渡使用貸借公正証書により右古牧寅蔵から譲渡を受けたものであつて現に被控訴人の所有に属すると主張するので審究するに、成立に争ない甲第一号証及び原審並びに当審証人古牧寅蔵の証言によれば一応右事実が認められるようであるが、なお仔細に右証拠の内容を比較検討するに、甲第一号証(昭和二十八年一月十二日静岡地方法務局所属公証人磯貝惟一作成第六六六四七号金員貸借物件譲渡、使用貸借契約公正証書謄本)によれば、被控訴人は、昭和二十七年八月十五日古牧寅蔵に対し金五十万円を利息一割、昭和二十八年一月から同三十年九月まで毎月末日限り金一万五千円宛割賦弁済の定めにて貸し渡し、右債権担保の目的を以て古牧寅蔵から同公正証書添附目録記載の物件の譲渡を受け、改めて昭和三十年九月三十日まで古牧寅蔵にこれが使用を許すこととし、相互に右物件の引渡を了した旨の記載があるが、右物件中には、家財道具は固より男物ワイシヤツ三枚子供毛糸セイター十着女物カンタン服二十枚カヤ三張女帯七本男帯二本の如き日常使用の衣類まで包含しているのであつて、当審証人古牧寅蔵の証言によれば、営業用機械器具の外一切の家財道具衣類の末にいたるまで譲渡担保に供したというのであるが、かかる異例のことは到底想像もつかず、又同証人の証言によれば前記五十万円の貸金は、同日現実に借り受けたものではなくして、従前被控訴人に対して負担していた取引上の債務その他を一括して、消費貸借の目的としたものであると供述しているのであつて、その間甲第一号証の記載と若干食違があるのみならず、同証人はさらに月賦金の支払も完全に履行せず利息の支払もしていないと供述しているのであるから、右供述のとおりとすれば、被控訴人は右公正証書記載の第五条第十四条の条項に基き直ちに前記物件の返還引渡を請求することができるのにかかわらず、控訴人の本件強制執行にいたるまでかかる挙に出てないのであるから、これらの点にかんがみるときは原審並びに当審証人古牧寅蔵の証言は到底信を措きがたく、甲第一号証による意思表示は通謀による虚偽表示と認めるのが相当であつて、これにより本件物件の所有権が被控訴人に移転したものとなすことができない。