東京高等裁判所 昭和29年(ネ)1325号 判決 1955年12月28日
控訴人 バンク・デ・リンドシン
被控訴人 株式会社吾嬬製鋼所
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し鉄鋼厚板厚さ、四、五耗、巾五呎、長さ二十呎のもの合計二百瓲を引き渡せ。もし右に対する強制執行が不能となつた場合には被控訴人は控訴人に対し金五百十五万七百十九円四銭を支払え訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人において、原判決中「被告会社が大南貿易から原告主張の小切手を受領したことは認める」(記録二六六丁表五行目)とあるは、事実摘示の誤りであるから、これを「被控訴会社は控訴会社主張の大南貿易振出の小切手を訴外徳屋商事を通じ、訴外山藤興業より受領したものである。」と訂正する、と述べた外は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。<立証省略>
理由
一、控訴人が本店を仏蘭西共和国巴里市ブールバール・ハフスマン九六番地に有し、日本における代表者をアンドレ・フイユエと定めて、東京都中央区日本橋呉服橋二丁目一番地に登記を経た営業所を有する銀行業を営む外国法人であることは本件に編綴の控訴人の登記簿抄本により当裁判所に顕著な事実である。
二、成立に争のない甲第一号証(但し表面のみ)、第二号証、原審証人加藤鉄三、満田忠生、原審並びに当審証人豊田三良の各証言を総合すれば、控訴人は、昭和二七年二月一七日頃訴外大南貿易株式会社より右会社の控訴人に対する貸金債務の残金一五万〇七一九円の〇四銭に対する担保として、右会社が訴外山藤興業株式会社から受領した、被控訴会社がその千住工場に宛て、右山藤興業株式会社を渡先として発行した鉄鋼板厚さ四・五粍巾五呎長さ二〇呎重量一〇〇瓲の出荷依頼書二通(一通は昭和二七年二月一四日発行のNO四一六、他は同年二月一五日発行のNO四一五、甲第一、二号証)の交付を受け、控訴人は現在右出荷依頼書二通を所持していることを認めることができる。
三、控訴人は、右出荷依頼書は、物件の売主が買主に対しそれに記載されている物件を引渡すべき債務を約諾して発行する書面であつて、一般に物件の買主からかかる依頼書の譲渡を受けた者は何らの通知等を要しないで、発行者売主に対しそれに記載された物件の引渡をもとめることができるという商慣習があり、控訴人はこれによる意思をもつて右出荷依頼書を取得したと主張し、これを原因として被控訴人に対し右出荷依頼書記載の鉄鋼厚板合計二〇〇瓲の引渡を求めるから考えるに、出荷依頼書その他類似の名称を有する書面が、鉄鋼生産者乃至鉄鋼問屋において、鉄鋼類の売買につき一般に使用されていることは当事者間に争がなく、原審鑑定人平野晃の鑑定の結果によれば、右の如き書面について、控訴人の主張するような商慣習の存在することが認められるけれどもしかしまた右鑑定の結果によれば、右書面は右のような一義的性質を有するものではなく、等しく出荷依頼書等の名称を用いながら、生産業者または問屋の営業所からその工場または倉庫等に対する一定の指示の伝達機能のみを有し、単なる伝票の性質しか持たないものもあることが認められる。而してこれを本件についてみるに成立に争のない甲第一、二号証原審証人久保辰吉、原審並びに当審証人笹倉実の各証言を総合すれば、本件出荷依頼書二通は被控訴人がこれを右認定にかかる後者の性質のみを有するものとして発行したものであることが明らかである。(甲第一、二号証が如何なる性質の証書として作成せられたかはその発行者の意思によるものと解すべきであり、被控訴会社の発行の際の意思としては以上に認定したり通りである。右証言書に「本書ハ他人ニ譲渡スルヲ得ズ」との記載のあることを以て以上の認定を左右するには足りない。
加之甲第一、二号証の出荷依頼書はこれを、右鑑定人が前示後者の性質のみを有する場合一般に使用されているものとして掲げる例と対比するとき両者必らずしも相異なるものとは認定し難い。しからば、控訴人が本件出荷依頼書の譲渡禁止文言が無意味であつてこれなきに等しいとか、或は右文言は代金の決済が終つたことにより無意味に帰したとか、また右文言がその後解除されたから、これなきものと同様の性質を有するものであるとか縷々主張するけれども、本件出荷依頼書の性質が前記認定の如きものである以上右主張については判断を要しないものである。)
以上認定のとおりであるから、控訴人が本件出荷依頼書を取得したからとて、これにより被控訴人に対し本件物件の引渡請求権を取得するに由ないものと言わなければならない。
四、次に、控訴人は予備的請求原因として、被控訴人が昭和二七年二月一四日本件物件引渡請求権が控訴人に譲渡されたことを承諾したから、被控訴人は控訴人に対し本件物件を引渡すべき義務があると主張し、当審証人豊田三良は右の主張に聊か添うような証言をしているが、右証言は、原審並びに当審証人笹倉実の証言に照らし信用することができないし、控訴人のその余の全立証によるも、いまだ右主張事実を認めるに足りない。従つて控訴人の右予備的主張もこれを採用することができない。
五、しからば、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却すべく、これと趣旨を同じくする原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第八九条、第九五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 角村克己 菊池庚子三 吉田豊)