東京高等裁判所 昭和29年(ネ)1419号 判決 1955年2月21日
控訴人(原審当事者参加人) 椙村一男 外一名
被控訴人(原審原告被告) 片岡末太郎 外三名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人等の負担とする。
事実
控訴人等訴訟代理人は「原判決を取消す。被控訴人片岡末太郎、同刀根豊之助、同片岡喜久の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人片岡末太郎、同刀根豊之助、同片岡喜久の負担とする。」との判決を求め、被控訴人片岡末太郎、同刀根豊之助、同片岡喜久の訴訟代理人は控訴棄却の判決を求め、被控訴人房総天然瓦斯工業株式会社は、当審における口頭弁論期日に出頭せず且つ準備書面も提出しない。
各当事者の事実上の陳述は、原判決事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。
<立証省略>
理由
当裁判所は、左記の点を附加する外、原判決理由に説示すると同一理由によつて被控訴人片岡末太郎、同刀根豊之助、同片岡喜久の本訴請求は正当として認容すべきものと判断する。従つて右原判決の理由をここに引用する。
附加する点は左記のとおりである。
一、商法第二百四条第二項は「株券の発行前になした株式の譲渡は会社に対して効力を生ぜず」と規定している。かかる方法による株式の譲渡の、当該当事者間における効力の有無はしばらく措き、少くとも会社に対する関係においては、一般に対抗することを得ずというと異なり、この点に関する原判決の説示(原判決九枚目裏四行目から七行目まで)のとおり、たといかかる株式の譲渡を会社において承認しても、その効力を生ずるに由ないものと謂わなければならない(東京高等裁判所昭和二四年(ツ)第七号同年十月十五日言渡判決参照)。
二、昭和二十五年法律第一六七号商法の一部を改正する法律において、株式の譲渡は定款の定めによるもこれを禁止しまたは制限すること得ない旨を定めて、株式の自由譲渡性を保証し(第二百四条第一項)、会社は成立後または新株の払込期日後遅滞なく株券を発行することを要する旨を規定し(第二百二十六条第一項)、また株券の裏書によらない記名株式の移転は、取得者の氏名を株券に記載しなければその取得を以て会社その他の第三者に対抗し得ないとした旧第二百六条第二項の規定を削除し、改正法第二百六条では株式取得者の氏名を株券に記載することを対抗要件としていないことは、控訴人等の主張するとおりであるが、商法第二百二十六条で特に株券発行の時期について明文を設けたのは、改正法第二百四条第一項、第二百五条第一項により株式の譲渡性を確保する措置をとつたことに対応し、従来株券の発行が遅れたり或は発行しないまま放置されていたりして、株主の保護に欠けるところがあつたことに鑑み、これが発行を促進し商法の規定する株式の譲渡等に支障なからしめんがためであると謂うべく、このことから逆に同法第二百四条第二項の解釈として、会社成立後通常株券を発行し得る合理的時期以後は、株券の発行がなくても商法の規定する以外の適当な方法によつて株式の譲渡がなされ、会社においてこれを承認した以上、右株式の譲渡は会社に対する関係においても適法有効であるとの、控訴人等の主張は首肯できないところであつて、同条の法意に関する原判決の前示説示は正当である。尤も会社成立後株券発行の間において、株金払込領証等の交付によつてなされる株式譲渡の商慣習の有無及びその効力については、問題はあらうが、本件において控訴人等の主張する株式の譲受は、この方法によるものでないことは、成立に争のない丙第一号証、当審証人家永文彦の証言並びに当審における控訴人椙村一男本人の尋問の結果によつても明らかであるから、この点について特に論ずるまでもない。
よつて爾余の被控訴人並に控訴人等主張の各論点につき判断を俟つまでもなく、被控訴人片岡末太郎、同刀根豊之助、同片岡喜久の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、これと同趣旨に出でた原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四条に則り本件控訴を棄却すべく、控訴費用の負担につき同法第八十九条第九十五条第九十三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)