大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和29年(ネ)18号・昭28年(ネ)1776号 判決

原判決中控訴人大久保に金銭の支払を命じた部分を次のとおり変更する。

控訴人大久保は被控訴人等に対し昭和二十七年十二月十一日から別紙目録<省略>の店舗明渡ずみに至るまでさらに一ケ月金二万四千円の割合による金員を附加支払うべし。

控訴人上野は被控訴人等に対し右同日以降別紙目録の店舗明渡ずみに至るまで一ケ月金三万円の割合による金員を支払うべし。

被控訴人等その余の請求を棄却する。

当審において生じた訴訟費用は控訴人等の負担とし、原審において本訴に関して生じた訴訟費用の三分の二は控訴人大久保の負担とする。

本判決中控訴人等に対し金銭の支払を命ずる部分は仮に執行することができる。

二、事  実

控訴人等代理人は、被控訴人等の請求を棄却した部分を除き、原判決を取消す。被控訴人等の請求を棄却する。被控訴人等は控訴人大久保に対し金五万円及び昭和二十三年八月二十四日から昭和二十七年十二月九日まで一日(控訴状に「一ケ月」とあるのは「一日」の誤記と認める。)金二千五百円の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする、との判決並びに金銭支払の部分につき仮執行の宣言を求め、附帯控訴に対し控訴人上野に対する附帯控訴は不適法として却下せらるべき旨抗争した上、本案につき本件附帯控訴を棄却する、との判決を求め、被控訴人等代理人は主文第一項同旨の判決を求め、附帯控訴につき、原判決中金銭支払を命じた部分を次のとおり変更する。控訴人等は各自被控訴人等に対し昭和二十七年十二月十一日から別紙目録の店舗の明渡ずみに至るまで一ケ月金六万円の割合による金員を支払うべし、との判決並びにこの部分につき仮執行の宣言を求めた。

事実並びに証拠の関係は、

被控訴人等代理人において、控訴人上野は被控訴人等所有の別紙目録の店舗を昭和二十七年十二月十一日以降何等の権限なくして占有しているものであるから、同控訴人に対しても所有権侵害により右同日以降右店舗明渡ずみに至るまで相当賃料額たる一ケ月金六万円の割合による損害金の支払を求める次第であり、同控訴人を附帯被控訴人として当審において更に右請求に及ぶ、と述べ、

控訴人等代理人において、控訴人上野が被控訴人等主張の日から右店舗を占有していることは認める、と述べ<立証省略>た外は、すべて原判決の事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

三、理  由

(一)  控訴について。

当裁判所は本件にあらわれた一切の資料を検討した結果、すべて原判決の理由記載と同様の判断により、被控訴人等の控訴人等に対する店舗明渡の請求、原判決の認容した限度における被控訴人等の控訴人大久保に対する損害金支払の請求は何れも認容せらるべく、控訴人大久保の被控訴人等に対する損害金支払の反訴請求は理由なきものとして棄却せらるべきであるとの結論に到達したので、ここに右記載を引用する。よつて本件控訴は理由なく棄却を免れない。

(二)  附帯控訴について。

先づ控訴人上野に対する「附帯控訴」なるものの許否について判断する。

控訴は第一審において不利益な判決を受けた者においてなすべきものであるから第一審において請求の全部を認容せられた原告が訴の追加的変更をするために控訴又は附帯控訴をすることは許されない。しかし、又、控訴審において訴の追加的変更をすることは許容せられるところであり、そしてこの控訴審における訴の追加的変更の許容は第一審において請求の全部又は一部が棄却され原告の控訴によつて事件が控訴審にけい属した場合のみでなく、第一審において原告の請求全部が認容され被告の控訴によつて事件が控訴審にけい属した場合にも妥当すべきものである(訴訟経済上の利益、当事者双方の利益の按配等の見地から両者を区別して取扱うべき実質的理由はない。)と共に、この後者の場合、即ち第一審において全部勝訴した原告が被告の控訴に伴つて控訴審で請求の拡張をする場合は訴の追加的変更にすぎないのであつて、そこに新たな附帯控訴が存立する余地なく、新たな附帯控訴として是認さるべきでないことは控訴そのものの性質からいつて当然である。(大審院大正七年(オ)第二八四号、同年七月四日言渡判決、同大正九年(オ)第九五八号、大正十年三月十一日言渡判決等の趣旨参照。なお大審院昭和二年(オ)第一〇二三号、同年十二月七日言渡の判決は、第一審で全部勝訴した原告が被告の控訴による事件の控訴審へのけい属後に請求を拡張するは、附帯控訴に外ならずとの見解をとるがこの見解は控訴はその実体が不利益なる原判決に対する不服申立であるということに反するのであつて今にわかに従い得ない。)

ところで本件訴訟の経過によれば、被控訴人等は原審において控訴人上野に対しては店舗の明渡のみを求めその請求はそのまま認容されたところ、同控訴人の控訴により右事件が当審にけい属した後被控訴人等において右上野をも附帯被控訴人とした附帯控訴状を提出し、それによれば、「控訴審において明渡請求に附帯する不法占有に因る損害金の請求を拡張し、附帯被控訴人上野に対しても」損害金の支払を求める、というのであるから、その審判要求の形式はいかにも前記の如くかかる場合に許されぬ「附帯控訴」の名においてなされているといえるけれども、その真実意図するところが前記の如くかかる場合に許される控訴審における単なる訴の追加的変更にあることは極めて明瞭にあらわれているといえるのである。そしてかような特殊の場合には、たまたま採られ、そしてそれによれば直ちに許されぬことになる申立の形式を以て処置の基準とすべき(本件では附帯控訴の却下となる。)ではなく、明らかにあらわれ、そしてそれによれば許されることになる申立の実体に即して事を処理するのが正に訴訟の目的にかなう措置というべきであつて、被控訴人等の控訴人上野に対する前記申立はいわば「附帯控訴」の名を冠した控訴審における単純なる訴の追加的変更としてとらえるのが妥当である。そして被控訴人等は原審以来控訴人上野に対し所有権にもとずき店舗の明渡を求めて来たのであり、右訴の変更により前記の如く追加せられたものは右店舗の不法占有による損害賠償の請求なのであるから、その間請求の基礎に変更なきはもとよりであると共に、右新請求の追加によつて著しく訴訟手続を遅滞せしめるものでもないことは本件訴訟の推移から見て明かであるから、被控訴人等の控訴人上野に対する右請求の追加は適法として許容せらるべきである。

そこで被控訴人等の控訴人大久保に対する附帯控訴、控訴人上野に対する拡張にかかる請求の理由ありや否やについて検討する。

控訴人大久保が被控訴人等に対し昭和二十七年十二月十一日以降別紙目録の店舗の明渡ずみに至るまでその明渡遅延によつて右店舗の相当賃料額による損害金支払の義務を負うものであることは先に引用した原判決理由の説示するとおりである。次に本件店舗が被控訴人等の所有に属すること、控訴人上野が被控訴人等主張の日から右店舗を占有して現在に及ぶことは控訴人上野の認めるところであり、同控訴人の右占有が無権原のものであることも先に引用した原判決理由の説くとおりであるから控訴人上野も亦被控訴人等に対し昭和二十七年十二月十一日以降右店舗明渡ずみに至るまで不法占有にもとずき相当賃料額による損害金支払の義務を負うものといわねばならぬ。そこで右店舗の相当賃料額について判断するに、この点については当裁判所は原判決認定の如く控訴人大久保が昭和二十三年四月頃から本件店舗を敷金十万円、賃料一ケ月二万五千円で他に賃貸していたことがある事実にかんがみ、当審鑑定人田中弘及び熊倉信二の各鑑定の結果をしんしやくして検討した結果昭和二十七年十二月以降の本件店舗の相当賃料額は月額金三万円を以て相当と判定する。(この判定にてい触する被控訴本人高橋トミの原審における供述は信用できない。)

然らば控訴人等は各自被控訴人等に対し昭和二十七年十二月十一日以降本件店舗明渡ずみに至るまで一ケ月金三万円の割合による損害金の支払義務あるものというべく、被控訴人等の控訴人等に対する損害金請求は右限度において認容すべくその余は失当として棄却を免れない。従つて原判決中控訴人大久保に対する損害金の請求を一ケ月金六千円の限度においてのみ認容した部分は失当というべく、本件附帯控訴はこの範囲で理由があるので、この部分を変更し、控訴人大久保に対し更に一ケ月金二万四千円(右金三万円と金六千円との差額)の割合による損害金の追加支払を命ずることとする。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第九六条、第八九条、第九二条、第九三条を、当審において新たに金銭支払を命じた部分の仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文の如く判決する。

(裁判官 薄根正男 奥野利一 古原勇雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!