大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(ネ)2046号 判決

そこで、まず被控訴人らの主張する被保全権利が金銭的補償によつて終局の目的を達することができるか、どうかについて検討する。被控訴人らの主張する被保全権利が所有権であることは右引用の原判決記載のとおりであるところ、もしも控訴人によつてその所有権が侵害された場合に被控訴人らがいかなる損害を受けるかを考えるに、証拠によれば、被控訴人らは従来本件土地上の立木を時折他に売却して婚礼等の不時の出費や、被控訴人ら世帯の耕作地が狭いため往々にして生ずる農業収入不足の補いに当てゝ来たものであり、将来も、同様の目的で右立木を一部づゝ売却する意向であつて、被控訴人らがその立木を所有するのは生活の資として、単にその経済的価値を目的とするものであることが疏明されるから、観念的にいえばもしも被控訴人らは本件土地上の立木を伐採搬出されても、その立木の価格に相当する金銭的補償が得られるならば、被控訴人らの受ける損害は補償されるものということができる。しかしながら、右各証言によれば、本件土地上の立木は被控訴人ら及びその父祖らが数十年来植林し、育成してきたものであることが疏明されるから、これを理由なく伐採されることは感情として忍び難いところであると考えられるばかりでなく、一時に伐採されるときはその伐採跡地全部に一時に植林することは容易でないことは右各証言によつて窺われるところであり、よしんば将来控訴人より金銭賠償を得ることによつてもしくはその他の方法で一時に植林できたとしても、それが成育し、経済的価値を発揮するまでの間何十年間は被控訴人らにとつて本件土地上の立木が従来果してきた経済的保障の機能は失われ、被控訴人らの経済生活は弾力性を失い、やゝもすると破綻の危険を生ずることは容易に看取できるところである。更に一般的にいつても、森林を所有する者にとつては立木を一時に伐採することなく、一部づゝ伐採して、その跡地に逐次植林し、絶えず育成してゆくことが最も経済的に安定した利用方法であつて、一時に大量の立木を伐採し、消費しやすい金銭に換えてしまうことは、特に商人的才能に乏しい農村の人々にとつては極めて不得策であるというべきである。これらの点を考えると、被控訴人らが控訴人によつて本件土地上の立木を伐採搬出される代りに、その立木の価格に相当する金銭の補償を受けることと、被控訴人らが本件立木を被控訴人らの所有として保有することとは、その終局的な結果を比較してみても、同一であるとはいゝ得ないのである。要するに被控訴人らの主張する被保全権利は金銭によつて補償できる度合はかなり大きいけれども、完全に金銭的補償によつて終局の目的を達することができるものであるということはできない

(牛山 田中 岡松)

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