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東京高等裁判所 昭和29年(ラ)114号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実〕

抗告人は東京地方裁判所が抗告人所有の建物につき言渡した競落許可決定(昭和二十五年(ケ)第二八九号)に対し即時抗告の申立を爲し、抗告理由として次の通り主張した。即ち本件競落の前提となつた昭和二十六年三月六日付競売期日の公告には賃貸借関係の表示として、(イ)堀鉱一郞の使用貸借(ロ)義新海たいの同〓関係のみが記載されている。しかるに競売申立書添付の本件建物登記簿謄本によれば、本件建物につき債権者千葉合同無盡株式会社の爲め、抵当債務額を弁済期に弁済しないときは即時賃借権発生する定にて、賃料一カ月金五十円、期間三カ年賃借物の転貸及び賃借権の讓渡を爲しうる特約の賃借権設定請求権保全の仮登記がしてあることが明かである。そして抗告人が弁済期たる昭和二十四年六月五日に抵当債務の弁済をしなかつたことは競売申立書記載のとおりであるから、約旨に基き本件建物には右会社を賃借人とする賃貸期間爾後満三カ年の賃借権が発生した。ところで競売期日の公告に賃貸借関係を表示せねばならぬことは競売法によつて準用される民事訴訟法第六百五十八条第三号の規定するところであり、これが記載は競売人の価格決定上必要欠くことのできぬ条件である。故に右賃貸借の記載のない競売期日の公告は不適法であり、従つてこれに基く競落は許すべきでなく、原決定は取消を免れないというにある。

〔判斷〕

抗告棄却。その理由として次の三点を掲げている。その二が禁反言の法理に関するものである。

一、本件記録に現われている証拠によると、抗告人主張の賃借権設定請求権は抵当債務の弁済なきことを条件として、何等の意思表示を俟たず当然に発生すべき趣旨のものではなくて、かかる場合債権者の一方的意思表示により、賃借権を設定せしめらるべき賃貸借予約上の権利に外ならず、しかも本件においては未だ債権者より、右予約上の権利の行使なく、從て現実に賃貸借が成立し賃借権が発生するまでに至つてないものと解するのを相当とする。それ故本件建物の競売期日の公告に賃貸借関係存在せざるものとして、その記載がなされてないことはむしろ当然である。

二、抗告人は賃貸借の取調に当つた執行吏に対し、自ら本件建物は二陛六疊一間を抗告人の友人堀鉱一郞に使用させておる外、一切賃貸借関係存せざる旨陳述していることが記録中の右執行吏作成にかかる賃貸借取調報告書により明かである。抗告人が右の如く陳述し、その陳述を信賴して爲された執行吏の報告に基き、競売期日の公告に賃貸借関係の表示を欠如するに至つたものである以上、競売手続の進行した後の段階に至り抗告人において事実は賃貸借が存するに拘らず、競売期日の公告にその表示がないのは不当であると主張するのは、著しく信義に反し、所謂禁反言の法理に照すもかかる主張は到底許し難いところである。

三、仮に競売期日の公告に現存する賃貸借関係の記載なき爲め、競売人が目的物件の評価を誤り不当に高い代金を以て競落したからとて、これにより抵当債務者たる抗告人は利益こそ受けることはあつても、毫も損害を豪るべき筋合ではないから、これを以て競落不許を求める実質的の利益なきこと明かである。

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