東京高等裁判所 昭和29年(ラ)526号・昭29年(ラ)554号 決定
元来競売は最低競売価額以上の価額を以て競売されることを目指して手続が進められるものであるから、一部の競売物件の最低競売価額だけで既に債権額及び手続費用を超えている限りは、他の物件は競売に付する必要は存しない。従つて競売に付せらるべきものとして申立てられた不動産が数筆存在し、その一部の最低競売価額のみで債権額及び手続費用の合計額を超過するときは、他の不動産は同時にこれを競売に付することはできないものと解しなければならない。ところが本件競売においては、前認定のとおり別紙目録記載の(イ)の不動産の最低競売価額のみで債権額や手続費用を遙かに超過していたのであるから、(ロ)ないし(ホ)の他の不動産は競売に付する必要がなかつたにも拘らず、右不動産はすべて同時に競売すべきものとして公告の上手続が進められたため、(イ)の不動産につき競落許可決定を言渡すとともに、(ロ)ないし(ホ)の不動産については、結局競落不許可決定を言渡さざるを得なくなつたものであつて、つまり同時に競売に付すべからざる物件を競売に付した違法があるといわなければならない。そして右の違法が競落不許可となつた物件に関する違法のみにとどまり、競落許可となつた物件に何等影響を及ぼさないものであるならば、原競落許可決定はこれが取消の必要を見ないのであるが、本件競売においては競落許可決定の言渡のあつた(イ)の不動産の競落にも次に述べるような影響を持つものである。
即ち本件競売の公告には、競売に付すべき限度を超えた物件まで同時に競売するものとして記載した違法が存する。尤も右のような公告の記載がなされても、爾後の手続として民事訴訟法第六百七十五条所定の物件についてのみ競売を実施しその他の物件は競売しないこともできるし、また右限度を超えて競売が実施せられ競買申出がなされたとしても、債務者をして売却物件を指定させ、右限度超過の物件については競落不許可とすることもできるのであつて、このことは公告に係る各競売物件が相互に何等の関連を持たない別個独立の関係に立つ物件である場合には、前記のような公告の記載の違法は民事訴訟法第六百七十五条所定の限度内の物件の競落に関する限り、単に無用な記載をなしたものに過ぎないもので、これを以て右物件の競落許可に関する異議や抗告の事由となすことはできない。蓋し右のような公告の違法は、右限度内の物件の競落に関する限り利害関係人に何等の不利益を与えるものでないからである。しかし本件においては、別紙目録記載の各土地は相隣接する一団の土地であり殊に(ホ)の建物は(イ)の宅地上に存在するものであることは、その所在の地番を彼此対照することによつて自ら明かである。元来数筆の一団の土地又はある土地とその地上の建物とが、同一人の所有である場合と各別の人の所有に帰している場合とでは、その利用価値や交換価値等において少からざる相違があるのが普通であるから、右の如き数筆の不動産が相互に相関関係を持つている本件競売の公告は、同時に競売すべきでない物件まで記載した違法があり、右の違法は単に無用の記載たるにとどまらず競買申出人をして右公告に係る全部の不動産を同時に競落しその所有権を取得しうるものの如き誤解を生ぜしむる悪影響のある記載であつて、右(イ)の不動産に対する本件競落も許すべからざるものと認める。