大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和30年(う)1139号 判決

被告人 都丸一三

〔抄 録〕

一、弁護人の論旨第一点について。

本審証人本橋武、牛久桂太郎の供述によれば、被告人は本橋武のために、昭和二十九年八月中前橋市内横山町の店舗を借入れるため、家主たる牛久桂太郎と交渉斡旋していたが、権利金や家賃が高かつたので契約成立するに至らず一時見合せとなつていたところ、間もなく本橋武が他の紹介を受けて直接牛久と交渉し、権利金三十万円を二十五万円に減じて貰い家賃は月三万円として賃貸借契約が成立したのを知つた被告人は本橋が自分を出し抜いたものとして同月二十五日頃同人が被告人宅に謝罪に来た折も手数料として六万円を要求し、組合員全員の力によつて取れるものは取ると豪語し、更に同夜七時頃同市立川町七十九番地本橋武方に前記手数料の支払要求に赴いた事実及び被告人が同月三十日本橋より金一万八千円を受領した事実は認められないではない。しかし宅地建物取引業者の報酬額を定めている昭和二十八年一月三十日群馬県告示第三十三号によつても、月家賃三万円の家屋賃貸借契約が成立すれば手数料として六万円程度の報酬額を受領するのは必ずしも過大不法なものとはいえないし、前記のような事情で一時交渉を見合せている中に本橋が牛久と直接交渉を初め、賃貸借契約が成立するに至り被告人の仲介によつて契約成立したものではないがこのような場合被告人の仲介によつて契約成立した場合と同様に手数料を請求し得るものと解さなければならない。もしそうでないとすれば、土地家屋周旋を業とする者としては、契約成立に努力しながら、何等の報酬をも受けることができなくなり、その営業上重大な打撃を受けることにならざるを得ないからである。してみれば被告人が本橋に対して六万円を要求したのは被告人が土地家屋周旋業者として当然保有する報酬請求権の行使であると認めざるを得ない。もつとも被告人の前記所為に際し本橋に対し多少不穏当な言葉を弄したことは否定できないのである。しかしこれとても被告人の従前の斡旋行為を無視し、本橋が被告人に一言申入もしないで勝手に牛久との間の直接交渉を進めたことが原因を為したものと認められ、本橋に非難すべき点がないわけではないのをみれば、被告人に多少不穏当な言辞も本橋にとつて受忍し得ない程度のものとも認められないから、被告人の所為を以て権利の行使に仮託したとか或はその方法が社会通念上正当な程度を超えたものとして恐喝罪を構成するものと断ずるのは相当でない。又本件報酬額が結局一万八千円に減額されているから結果的には被告人が要求した報酬額と大きな開きが存するが、この結果から遡つて当初の被告人の要求が不正不当なものと断ずることもできない。それに拘らず原審が前記六万円の金額の要求が不法であるとしてその後被告人が本橋より金一万八千円を受領したことを恐喝罪に問うたのは事実を誤認し、延いて法律の適用を誤つたものというべく、論旨は理由がある。

二、同第二点について。

原判決がその判示第一、第三及び第六の各詐欺罪について各刑法第二百四十六条第一項を適用していることは所論のとおりである。而して他人を欺罔して財物の給付を内容とする権利を取得し更にその権利の実行として金銭を取得したときはこの両者を包括的に観察して刑法第二百四十六条の一罪として処断すべきものと解するのを相当とする。それ故原判示第一、第三及び第六の所為についても包括的観察の下に刑法第二百四十六条を適用すべきであるが、この場合に同条第一項を適用したからといつて判決に影響を及ぼすこと明らかな誤とはいえないから論旨は理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!