東京高等裁判所 昭和30年(う)1164号 判決
被告人 石井忠
〔抄 録〕
弁護人の論旨第二点について。
原判決が引用した起訴状記載の公訴事実には「被告人は……サタケ商事株式会社内において同会社所有の男物スコツチオーバー一着を窃取した」と表示されているに過ぎず、そのオーバーが現実に何人の保管占有に属しているかを明示していないことはまことに所論のとおりである。而して窃盗罪は他人の占有を侵害する犯罪であるから、その事実を判示するには当該物品が何人の保管占有に属しているかを明らかにしなければならないのは勿論である。殊に所有者が法人である場合には、所有者と現実の保管者とは一致しないものであるから、前記のように単に所有者たる法人のみを判示し、現実の保管者を具体的に表示しない原判決の判示方法は妥当を欠くものである。けれども本件事案のような、洋服類の販売を営業目的とする株式会社が経営する店舗内でその店頭に陳列してあつた商品の窃盗事犯においては、その商品は、同会社代表者またはその委任にかかる使用人の保管に属することが推認されるから、かかる場合には「会社所有の商品を窃取した。」とのみ判示し、特に現実の保管者の氏名を明示しなくても判文自体から他に保管者の存することが推認され、その占有が侵害された趣旨であることが窺知できるから、原判決の判示方法は必ずしも違法ではないといわねばならない。してみれば原判決には所論のような理由のくいちがいは存在せず論旨は理由がない。