東京高等裁判所 昭和30年(う)1227号 判決
被告人 久米武文 外二名
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意第一点の(二)について。
論旨は、原判示第三の二の事実につき原審の法令適用の誤りを主張するものである。しかしながら原判決挙示の証拠を綜合すれば原判決認定の事実は優にこれを認めることができ、記録を精査検討しても原判決に事実誤認の疑は存しないから、これに対する原判決の法令適用についても何らの誤りは存しない。弁護人は被告人南八男の所為は原判示金員を預つて輸送したものに過ぎないから原判決の適用した人事院規則一四――七第六項第三号及び第四号に該当しないと主張するけれども、記録に徴すれば、右被告人の所為は単に金員を預つてこれを機械的に輸送したものとは到底認め難いところであり、同被告人が原判示のごとき国家公務員でありながら候補者高橋衛に当選を得しめる目的をもつて同人のため立候補届出前の選挙運動をした選挙運動者であることは原判示第三の一の(一)乃至(三)記載のとおりであつて、右に引き続きその立候補届出後である原判示日時頃判示の場所で同候補者の選挙運動者である青木茂から名古屋選挙事務所の選挙運動費用として現金五万円を前段認定のごとく指示されて自己の責任のもとにこれを授受したものであるから右被告人の所為は前記人事院規則第六項第三号にいわゆる「受領」に該当することは疑をいれないところであり、また同被告人が右金員を受領した後これを名古屋に携行して相被告人丸山防人との間にこれを授受したものであるから右被告人南八男の所為は同人事院規則一四――七第六項第四号にいわゆる「与え」に該当するものといわなければならない。弁護人は、この点に関し、右規則にいわゆる「受領し」又は「与え」とあるのはこの規則の取締目的から考えても、又一般の用語例から察しても所有権乃至処分権の譲り渡し又は譲り受けをいうものでなければならないと主張するけれども、国家公務員法及び人事院規則に定められた政治的行為の禁止又は制限の趣旨にかんがみるときは、右「受領し」又は「与え」とあるのは所論のごとく常に所有権若しくは処分権の移転を伴う場合のみならず、政治的目的のためにする意思をもつて自己の責任のもとに受取り又は自己の責任下にあるものを受渡す場合をも包含するものと解すべきであり、畢竟原判決には何ら所論のごとき法令適用の誤りは存しない。論旨は理由がない。
(花輪 山本 下関)