大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)1437号 判決

被告人 島田秀雄

〔抄 録〕

よつて考察するのに、原判示事実は、佐々木菊千代を証人として尋問するまでもなく、原判決挙示の証拠により、優にこれを認めることができ、記録及び当審事実取調の結果によるも、原審が、事理、経験の法則に違背し、或いは、所論にいうような審理不尽により事実を誤認した過誤もなければ、伝聞証拠により事実を認定した違法もなく、原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるということはできない。

而して、およそ、詐欺の罪の成立あるがためには、必ずしも、相手方に対し、積極的に虚偽の事実を告知するを必要とせず、信義誠実を旨とする商取引をするような場合には、事の真相をことさらに秘匿隱蔽した事実あるによつてもその成立あるを免かれない。されば、本件重油買入の取引において、その代金の支払に被告人の使用した松田一郎振出名義の約束手形が、仮に、手形法上有効に帰すべきものがあつたとするも、証拠上明らかなように、すでにして本件各重油の商取引前、松田一郎側から、これが約束手形使用の禁止を通告された被告人としては、もともと、財政的に行き詰まり一般の信用を無くしていた折柄財政上の一般信用を得ていた松田一郎振出名義の約束手形を使用して細山太七商店との間の当面の商取引を工面していたものである関係上、これが手形に信頼して重油代金の遅滞なき支払あるを信用して取引して来た同商店販売係長谷川寿夫に対しては、依然重油の買入取引を継続するかぎり、当然前記約束手形使用の禁止となつた事情を誠実に告知すべきであつたというべく(蓋し、すでにして該手形については松田一郎からの使用禁止の通告があつた以上少くとも該手形金額の遅滞なき支払は到底期待できなかつたところであるからである。)然るにもかかわらず、被告人は、敢てこれが事情を隠蔽して、使用禁止となつた松田一郎振出名義の約束手形が自己の手許にあるのを奇貨として、原判示の如く、これが使用を継続し、もつて相手方たる長谷川寿夫をして該手形金額が遅滞なく支払われるものと誤信せしめて売買名義の下に本件各取引によりそれぞれ同人から重油の交付を受けたというのであるから、その所為において、被告人は、到底詐欺の罪の責あるを免かれない。而して、被告人において長谷川寿夫に対する本件不始末後松田一郎から新らしく真正な約束手形の融通を受けてこれを長谷川寿夫側に交付した事実があるとするも、これは、被告人が、特に松田一郎に懇請して右不始末の決済金の弁済に当てたにすぎないものであることが証拠上明らかであるから、これが事実あるの故をもつて、右詐欺の罪の成立に消長のあるべきかぎりでもない。

論旨は、すべてその理由なく、原審が、被告人の所為につき詐欺の罪の成立を認めたことは正当である。

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