大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)1541号 判決

被告人 大菅強次 外一名

〔抄 録〕

原判決挙示の証拠によれば、原判示傷害の犯罪事実を認めるに十分である。すなわち右証拠によれば、原判示日時頃原判示大津観光ホテル階下ホールは多数の米兵が来合せ酒を飲み満員の状態であつたのであるが、既に他所で飲酒して来た被告人両名が更に飲酒の目的で同所に行き右ホールの中央辺に入つたとき酔払つていた日本人の女が出逢いがしらに急によろけて被告人村田のオーバーの衿につかまつたため、オーバーの釦が二つとれて女は同所にころび、右の釦は、その附近にころがり落ちた。そこで右村田がこれを拾おうとするや、附近のテーブルで飲酒中であつた原判示三人の米兵のうち一人が足許に落ちた釦を拾わせず「あちらに行け」といいしやがんで釦を取ろうとしていた右村田の手を蹴りとばしたことに端を発し両者ここに喧嘩となり右三名の外多くの米兵もこれに加担し大騒ぎとなつた。被告人村田は頭がかつとなり相手がどうなつてもかまわないと所携の小型ナイフ(当庁昭和三〇年押第五四五号の二)を振つて立ち向い闘争しその間に原判示ガンバルソン及びコーイングに対し原判示傷害を加え、被告人小菅は、喧嘩の当初被告人村田と米兵と喧嘩となり米兵側が強く右村田がやられそうであつたのを見て、村田に対し「待つていろ」と合図しておいて同所から約百米の自宅にタクシーで行き黒鞘の短刀(同押号の一)を持ち出し、これを携え、待たせてあつたタクシーで喧嘩の現場に引き返し押され気味の村田に加勢し闘争に加わり右短刀で原判示バツスイに原判示傷害を加えた事実を肯認するに十分である。論旨は、この点について原判決の事実誤認を主張し本件被告人両名の所為は、いずれも急迫不正の米兵の侵害行為に対し自分等の生命身体を防衛するため己むを得ざるに出でた正当防衛行為であり、仮に然らずとするも防衛の程度を越えたものであるから刑法第三十六条第一項又は第二項を適用せらるべき行為であると抗争するのである。然しながら、本件は些細な事柄から始まつた喧嘩闘争行為であり被告人小菅において被告人村田の米兵と喧嘩する状況を見て形勢われに非なりと判断し被告人村田に対し「待つていろ」と合図し、たとえ近所とはいえ自宅に引き返し原判示短刀を持つて来て闘争に加わつたのであるから、この間に相当の時間的余裕が存在することは明かであり、この間被告人村田は所携の小型ナイフを振つて米兵と争つているわけであるから、いずれから見ても被告人等の相手方の行為が刑法第三十六条第一項にいう急迫不正の侵害行為と認めることはできない。又相手方は何ら兇器を示すこともしないのに被告人両名はいずれもナイフなり短刀なりを振り廻して争つたのであるから、この点を参酌して右証拠に現われた被告人等の行動を考察するもむしろ積極的に攻撃を加える意思で闘争したものであつたことが推認され、その行為を目して防衛行為が必要かつ相当の限度を越えたものということもできないのである。又被告人等にして真に自己の身体等を防衛するにとどまる意思であつたとすれば、前記事情の下において被告人小菅は自宅に引き返す余裕があつたのであるから両名一致協力すれば、たとえ米兵にして多数なりとしても逃げ路を発見する余地は十分あつたものと思われるのである。所論にかんがみ記録を精査し当審で取り調べた各証人の尋問の結果、検証の結果を参酌しても当裁判所の措信しない被告人等両名の弁疏を外にしては各主張に添う趣旨の的確な証拠はなく、原判決の事実認定に過誤ある廉を発見することを得ない。従つてこの点に関する論旨はすべて理由なく採用し難い。

(大塚 渡辺辰 江碕)

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