大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)1843号 判決

被告人 起山和道

〔抄 録〕

被告人の原判示各金員の収受が、原判示の職務に関するものであるか否かについて審究する。先ず原判示当時における被告人の所属部署である農林省畜産局飼料経営課ないし同局飼料課(以下「飼料課」と略称)の職務権限の内容を見るに原判決援用の農林省畜産局飼料課長豊永光名義の昭和二十六年六月十一日付回答書、同花園一郎名義の昭和二十八年四月三十日付回答書の各記載、原審証人檜垣好文、同伊藤嘉彦の各供述記載等を総合すると、飼料課の所管事務として米糖配給統制規則第二条に基く米糖の搾油業者の指定が一応含まれてはいるけれども、この指定はいわゆる農林大臣の二重指定であつて、第一次指定は専ら食品局油脂課(以下「油脂課」と略称)がこれを管掌し、油脂課の指定した搾油業者をその生産された米糖油粕を飼料として確保するため飼料課が第二次的に飼料生産業者として指定する関係にあり、従つて業者としては油脂課から搾油業者としての指定を得さえすれば、搾油により自動的に副産される米糖油粕については、関係統制法令違反による処罰の有無に関し飼料課の調査を経たうえ、右処罰事実なき限り当然にその生産業者として指定登録される建前であることが明らかである。(なお飼料配給規則第十条第二項及び第十一条参照)。して見れば飼料課による右のような二重指定に対して、職務上の謝礼がなされる実質上の根拠に乏しいこと、換言すれば右二重指定については業者に対し実質的利益附与の余地が殆んどないものと認むべきことは所論のとおりであり、その他原判決が被告人の職務権限の一として掲げる米糖の生産及び消費の状況調査等についても、事は全く同断である。それゆえ被告人において共助油脂の社長岡田尚から同会社が飼料の生産工場として指定されたこと等に対する謝礼の意味の下に原判示各金員の供与を受けたとの原判決の所論認定事実には、叙上の如き被告人の職務権限と関係業者の立場とに照らし、右指定についての実質的利益附与の具体的事由が明らかとされていない点において、事実に副わない間隙が存するものといわざるを得ない。他面、本件当事者たる岡田尚及び被告人の原判示各金員授受に関する認識について考察するに、原判決が証拠として引用する岡田尚の検事に対する供述調書、被告人の司法警察員及び検事に対する各供述調書に徴しても、原判示各金員が原判示の如き趣旨であることの諒解の下に授受されたものであることを窺い得べき証左なく、ただ被告人が共助油脂に対し個人的な技能上の援助を与え、同会社の設立及び爾後の事業運営に便益を供したことは純粋の個人的技能の提供に過ぎず、職務に密接なる関連を有する場合と認めることはできない。従つて前記金員の収受を以つて収賄罪に問擬するのは当らない。更に記録並に当審における事実の取調の結果に徴しても、被告人が共助油脂のため前示のような個人的技能による利便を与えた外、純然たる個人資格において被告人の管掌職務と関係のない同会社設立に際しての準備援助、復興金融金庫からの建設資金借入の斡旋等をした関係上、これらに対する謝礼の趣旨において原判示各金員が授受された事実を認め得るに止まり、右各金員が原判示の如く被告人の職務に関し、賄賂として授受されたものと認むべき証拠を見出し得ない。然らば原判示事実は叙上の点において犯罪の証明なきものと認むべきに拘らず、これを有罪と判定した原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな事実の誤認があるものというの外なく、論旨はいずれも理由がある。

(谷中 坂間 久永)

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