大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)1881号 判決

被告人 望月圭太郎

〔抄 録〕

原判決が、被告人の本件業務上過失傷害罪を認むる前提として、その前半に於て被告人は自動車運転者であるところ、原判示日時頃自動車三輪車を運転し蒲原町方面より富士川町方面に向い、時速約三十五粁にて、原判示部落道路上を進行中前方約四十米の佐藤弐己方前道路左側に佐藤哲彦(満二年)等二、三人の子供が遊んでいるのを発見したのであるが、と判示し、更にかかる場合自動車運転者としては智能低き幼児のこととて、何時如何なる行動に出るかもはかり知れないので、絶えず警笛を吹鳴して車輛の接近を知らせると同時に何時でも停車し得るように速度を減らして進行し、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意業務のあることを肯定していることは、所論の通りであるが、原判決挙示の証拠によれば、右注意義務の存在をも含めて、被告人の原判示業務上過失傷害の事実はこれを肯認することができるのであり、なお所論にかんがみ当審の事実取調の結果をも参酌して記録を検討してみても、原審の事実の認定に誤りがあるものとは認められない。然るに所論は、前記業務上の注意義務の存在を断定すべき法的根拠を欠くと為すのみならず、記録によれば、当時幼児佐藤哲彦は自宅なる原判示佐藤弐己方接着の道路左側で土遊びに余念なく、毫も他に移動する気配が認められなかつたのであるから、かかる情況下にあつて自動車運転者たる者は寧ろ警笛を吹鳴する必要がなかつたのではないかと疑われるので、弁護人はその要否につき鑑定の申請をなしたのにも拘らず、理由なくこれを却下し有罪の認定をした原審には、審理下尽による事実誤認の違法がある旨主張するが、凡そ自動車運転者たる者は、常にその進路の前方を警戒し、危害の発生を未然に予防するにつき細心の注意を払い、交通の安全を図るは業務上当然の業務であつて、危険がその不注意に因り発生したる場合には、通行人の不用意に藉口して、その責を回避することは許されないところであるのみならず、所論の判断は裁判事項であると云わなければならないところ、記録並びに当審の事実取調の結果により明らかな前記道路の幅員が僅かに五・五米に過ぎない狭隘なるものである事情をも参酌して考察すると、所論の如き情況下に於ても、尚且つ叙上の如く警笛吹鳴の義務を認むるの外、速度を減じて臨機の処置をとり得るようになすべき業務上の注意義務の存在を肯定して、それ等を尽さなかつた被告人に対し業務上過失傷害罪の成立を認めた原審には、何等所論の如き審理不尽による事実の誤認はなく、論旨は理由がない。

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