大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)198号 判決 1955年7月14日

控訴人 被告人 大成国民金融株式会社 外二名

弁護人 古明地為重 外一名

検察官 中条義英

主文

原判決中被告人保泉静夫、同内藤嘉明に関する部分を破棄する。

被告人保泉静夫を懲役壱年に、同内藤嘉明を懲役八月に処する。

但し、裁判確定の日から夫々参年間右各懲役刑の執行を猶予する。

原審訴訟費用は全部被告人両名及び、被告会社の連帯負担とする。

被告会社の本件控訴はこれを棄却する。

理由

本件控訴の趣意は末尾添附の被告会社及び被告人保泉静夫の弁護人古明地為重、被告人内藤嘉明の弁護人沖田誠各作成名義の控訴趣意書のとおりであり、これに対し次のとおり判断する。

古明地弁護人論旨第一、無罪理由、沖田弁護人論旨第一点

原判示挙示の証拠を綜合すれば、原判示の如く被告人保泉静夫、同内藤嘉明は共謀の上被告会社の業務として原判示の如く預り金をした事実を認めるに十分である。ところで、所論は本件金員の受入は不特定多数人からの預り金ではなく、株主相互金融組織に基づく特定人からの株式に対する出資金である旨主張するのであるが、貸金業等の取締に関する法律第七条にいう貸金業者がしてはならない預り金とは、不特定多数の者から金銭を受け入れ、後日これをその人に返還するもので(但し金銭とはかぎらない。)名義の如何にかかわらず、預金、貯金、掛金と経済上同性質を有するものと解せられるから、株式会社の株式を所有して株主となり、株金の払込をするのはもとよりここに云う預り金とならないことは、株式の数は株主募集の都度一定していて特定しているのみならず、この株金の払込は預金、貯金、掛金と経済上同性質を有するものとは認められないからである。しかし株主名義で一定額の出金をしたものに限つて会社は金銭の貸付をするという仕組のものは、株主というても所謂株式を所有するものではなく、単に一定額の金銭を出金するという丈のことで、この出金も後日金銭或はこれに代るもので返還されるのであり、たとえ株主として応募したものに貸付は限定されるのであるというてもその人員は何等制限特定されることはないのであつて、多々益々よしとするものであるから、このようなものは不特定多数人を対象とするものというべく、このような人からの出金の受入は所謂預金、貯金、掛金と経済上同性質を有する預り金を為すものと認めなければならないのである。

今本件について見ると、原審が取り調べた全証拠によると本件金員の受入は株式に対する払込金では勿論なく、前述の如き株主名義をもつてする不特定多数人からの預り金であることはまことに明白であつて、所論のように特定人からの株式に対する出資金とは到底認めるに由ないものである。

又被告人保泉静夫は株主相互組織によるものは法令違反にならないものと信じていた旨主張するのであるが、本件株主相互金融組織によるというのは前説明のとおりのものであるから、同被告人がこれは貸金業等の取締に関する法律第七条違反にならないと信じていたとしてもそれは単に法律の誤解にすぎないものであつて、事実の錯誤があつたものとは認められないのである。(同被告人の司法警察員に対する昭和二八年一二月一九日及び同月二一日附各供述調書によれば、本件所為が株式取得という名義で掛金を為さしめる不特定多数人を勧誘対象するものであることを認めているのである。)

更に所論は被告人内藤嘉明は被告会社の甲府営業所長となつたことはない旨主張するのであるが、なる程原審並に当審において取り調べた全証拠によつても同被告人が正式に甲府営業所長に就任した事実はこれを確認し得ないところである。けれども甲府営業所長であつた同被告人実弟内藤達一が同営業所に出勤していた当時から所謂所長代理として原判示の如き同営業所の業務に従事しており、内藤達一が同営業所から去つた昭和二七年一二月頃からは事実上所長と同一業務に従事していたものであることは証拠によつて明瞭である。よつて原判決が同被告人を甲府営業所長と認定したことは事実を誤認したものとしても、実質上は所長と同一の業務に従事していたのであるからその誤認は何等判決に影響を及ぼすものとは認められない。

次に法律上本件預り金を為す主体は被告会社であり、貸金業等の取締に関する法律第一八条第二号は預り金を為した者を処罰する規定であることは所論のとおりである。

しかし、右第一八条第二号に預り金を為した者というのは預り金の主体という法律上の効果が帰属するものをいうのではなく、現実に預り金をする行為者をいうのであり、法人にあつては会社の機関(代理人、使用人を含む。)として行為を為す自然人であり又、個人にあつても人の代理人、或は使用人として現実に預り金を為す者をいうのであることは同法の解釈上自明のことである。従つて本件においても被告会社の機関として預り金という行為を現実にした被告人等両名が右第一八条第二号所定の責を負うべきものであつて、被告会社は同法第二一条の規定によつて責を負うにすぎないのである。被告人等両名の所為をもつて単に被告会社の所為を幇助した従犯であるとは到底認めることはできない。

その他本件記録を精査しても所論その余の事実を認めて原審の認定を覆すに足る証拠は発覚できない。原判決には所論のような事実誤認の存するものとは認められない。論旨はすべて理由がない。

(その他の控訴理由は省略する。)

(裁判長判事 久礼田益喜 判事 武田軍治 判事 石井文治)

弁護人古明地為重の控訴趣意

第一無罪理由 被告人大成国民金融株式会社の代表取締役が被告人保泉静夫であり、右保泉静夫個夫の意思が即ち会社の責任となるべき関係である故先づ本件に付き被告人保泉静夫に刑事責任の無い事を説明し併せて被告人会社の責任も亦無い事にする。

一、本件に付き被告人保泉静夫の関与した部面は同人が原裁判所へ提出した昭和二十九年十月二十七日附上申書記載の通りである故茲に之を援用して詳記することを省略する。要するに被告人保泉が同人の為して来た本件貸金業が貸金業等の取締に関する法律第七条に触れる事を知らなかつた、寧ろその反面被告人等の貸金事業は同法に触れないものと信じていたのである。此の事実は刑法上所謂法の不知即ち違法の認識を欠く場合に当る事は勿論であり、尚進んでは法律事実の不識ともなると考へられるのである。果して本件被告人等が貸金業等の取締に関する法律第七条の要件中その一に付き認識を欠いたか否やを検討するに被告人保泉静夫個人としては自己のしている仕事は株主相互会社組織に依るものであつて同法第七条に所謂不特定多数人から出金を受入れるものでなく株主となつた者又は株主となる者と云ふ特定人から株金として受入れた金をその株主へ貸付けるのである故同法第七条に触れないと確信していたと云ふのである。果して事業の事実面がその通りであつたとすれば何人が考へても同法第七条違反にならないのである。然るに本件が同法違反となり有罪の判決を受けるに至つた理由は、被告人保泉としては前記の如く株主相互金融組織の下に事業を運営し監督して来たが被告人の常勤していた館山の本社とその配下として働いていた内藤嘉明等の勤務していた甲府営業所とは余りにも遠隔であり交通も不便であつた為被告人保泉は常に監督に出張する事も出来なかつた関係上内藤嘉明以下の勤務員が株主相互の解釈を誤解し、或は加入者に対し株主相互金融組織なるものは如何なるものかを説明する事を怠り漫然株式申込書へ添えて金を受取り出金者に対しては恰も高利預金の如き仕向けをして出金させていたものであつた事が本件検挙に依り発覚し被告人保泉としては其の意外なるに驚いた次第である。

二、当時街の金融業者として全国津々浦々に亘り全盛を極めた金融会社は多くの外交員を使用し目的の為めには手段を選ばず式の資金吸収策を取り名は株主相互金融でありながら実は預金受入れと同一の出金をさせていたものも多かつた然しながらそれは第一線に立つ外交員の無定見に依るやり方であり上部に在つて責任を負ふ立場に居つた者としては常に株主として出金して貰ふ様に扱へと指図して居り本件に付いても被告人保泉は常に内藤等に対しその通り指図していた事は被告人内藤の供述に依り明瞭である。

三、或は貸金業等取締に関する法律第七条に如何なる名義を以つてしても預金と同一に見る旨の規定があり本件に付き株金として受入れたとしても右規定に触れると見られるが右規定たるや、その実の伴はない単に名義のみ使用した場合を云ふのであり、本件の如く株主組織を確立しその実体を備へたもの迄も単に名義上丈けと見る事は出来ない。

四、以上所論に依り被告人保泉静夫は被告人大成国民金融株主会社の代表取締役としてその配下の被告人内藤嘉明等の監督に付き地理上遠隔不便の為不行届の点はあつたとしても同人と共謀して故意に本件犯行を敢行したものでないと断言出来る事案である。

五、結論として被告人保泉静夫は同人の経営して来た被告人大成国民金融株式会社の事業は正式に大蔵大臣に届出済みのもので全国的大々的に他同業会社か株主相互金融組織の下に営業して居り自分の会社も其の先輩会社の例にならい株主相互組織のものであり且つその趣旨に従い加入者へ対し集金する様命じて置き自己はその取扱いで入金になつているものと確信していたのである故法律事実の錯誤があり従つて刑法上の故意を欠く事になり又違法の認識を欠く事にもなる。斯る場合の違法認識の欠如は之を処罰することは酷に過ぎる故無罪の御判決を仰ぐべきである。

弁護人沖田誠の控訴趣意

第一点原判決が被告人に対し有罪を認定したその理由を要約すると被告人は被告会社(大成金融株式会社)の甲府営業所長として同営業所に於ける外務員の監督、金銭、出納の業務に従事して居たものであるところ相被告人保泉と共謀して被告会社の業務に関し第一、昭和二十七年十月十七日頃から同二十八年十月六日頃までの間被告人内藤自ら又は外務員を使用して古屋重寿外二十名から一定の期間を定めて現金計金六十四万二千円受入れ預金を為し、第二、昭和二十七年十月十日頃から同二十八年十月六日頃までの間被告人内藤自ら又は外務員を使用して手塚昇外百十一名位から約百二十回に亘り同人等の選択した種別に従て日掛月掛の形式により合計金八十六万九千円を受入れ預り金を為し

たものとして貸金業等の取締に関する法律第七条第一項同法第十八条第二号刑法第六十条を適用処断した。

而しながら右判決は左の諸点に論ずる如く全く事実の誤認であり法の適用を誤つたものである。即ち、

(一) 被告人は甲府営業所長の職に就いたことは全然ない。被告人の実弟内藤達一が相被告人保泉と懇意であつて右弟から甲府へ営業所を開きたいから家を探してくれと頼まれて家を世話し、それで弟の話しで外務員として働いたに過ぎない、所長は達一であり被告人は外務員として歩合で働いたに過ぎない(内藤達一の証言参照のこと)。

(二) 事実上営業所長の職を行つたことはない、弟達一が外務員の監督、金銭出納等一切の業務を担当して居たが預金が満期となり払戻しの請求が厳重になつたため弟は千葉県館山市へ逃亡して更らに寄付かぬため一般預金者が被告人に迫つたので一時自己の私金を立替へ支払ふたのである、全く責任者ではない。

(三) 被告人内藤は相被告人保泉と共謀したことは全然ない。被告内藤は保泉とは全く未知の者であつて弟達一を通じ社長であることを知り弟の命ずる尽に行動したに過ぎないから社長とは意思の連絡は全然ない。又達一を介して共謀した事実もない。右は一件記録上明であるから被告人の所為を共同正犯と断じたのは全く誤りである。

(四) 原審認定の第一、第二の会社が受入れた金員は名義は預り金であつてもそれは被告会社の株主であり、又は株主となるべき人達であつて一般不特定人ではなく会社と特種な地位にあり特定された人であるから法第七条による預金と云ふことは当らない。

(五) 法第十八条第二号は預り金を為した者を処罰する規定であるから本件が法第七条違反としても処罰せらるる者は預り金を為した者即ち会社であつて他に預り金を為した者即ち複数の違反はあり得ない、法は預り金を為した、その主体を罰するの意である、被告人内藤等がその預り金行為に関し協力したとしても右は正犯を以て論ずることは出来ない。従犯である。原審が正犯を以て断じたのは違法である。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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