東京高等裁判所 昭和30年(う)2292号 判決
被告人 越智辰五郎
〔抄 録〕
控訴趣意第一点について。
銃砲刀剣類等所持禁止令第二条(昭和二十八年法律第百四十五号による改正前のもの、以下同じ)の律意は同条所定の除外事由ある場合を除き銃砲又は刀剣類の所持を禁止する趣旨であつて、仮りに所論の如く、昭和二十年十月十日商工、農林、文部、運輸省令第一号に基ずく昭和二十七年七月九日附通商産業省指令二七機第一一八〇号兵器、航空機等の生産制限に関する件第一条但書により通商産業大臣から拳銃、小口径銃の修理改造を許可せられその業務に従事していた者が、昭和二十七年十月二十四日右省令の失効に伴い、前記通商産業大臣の許可も失効した後において、通商産業省に右業務の取扱方を禀議した結果、一応従来通りの取扱をもつて右業務の継続方を承認する旨指示されたため、右指示に従い右業務に関し依頼者のため修理又は改造の目的で銃砲又は刀剣類を所持するのは違法ではなかつたとしても、右は前記の如く修理又は改造の目的を以つて所持する場合に限られるのであるから、その他の場合例えばその所有者に対する債権の代物弁済として譲り受け、所持するが如きは右の許可指示の関知するところではない。従つて仮りに銃砲等を一旦適法に所持した業者と雖も修理改造費等の代償としてこれを讓り受け所持することは銃砲刀剣類等所持取締令第二条の禁止するところであつてその讓受の所持は正当の業務に因る行為であるということはできない。記録によれば被告人は右商工、農林、文部、運輸省令に基ずく、前記通商産業大臣の許可を受け、拳銃、小口径銃の修理、改造の業務に従事し、昭和二十七年十月二十四日右省令の失効に伴う前記通商産業大臣の許可の失効後、通商産業省から一応従前通りの取扱にて業務を継続すべき旨指示せられて右業務に従事中、昭和二十八年六月上旬駐留米軍C・I・D事務官フイリツプ・ピー・クローバーから猟銃の修理、改造方を依頼せられると同時に、本件拳銃の分解掃除方を依頼されて、これを預り保管するに至つたが、その後、右猟銃の修理、改造代金三万七百円の支払に関し、同人の申出に応じ、これが弁済に代えて同人所有の右拳銃を譲り受け、引き続き同月二十五、六日頃これを寺田嘉幸(原審相被告人)に売り渡すまで所持した事実を認めるに足りるから、被告人は少くとも代物弁済として右拳銃を譲り受けた時から、銃砲刀剣類等所持取締令第二条に触れ違法に右拳銃を所持したものといわざるを得ない。而して原判決挙示の証拠によれば原判示事実は、叙上、行為の違法性を含めて、これを認めるに十分であつて、記録に徴するも所論の如く右代物弁済としての所持の取得が右駐留軍関係官クローバーの威力による強迫に基ずいてなされた意思のない行動であるとか、又は同人の強要により、これ以外の適法行為を期待し得ない状況下においてなされた違法性なき行為であるとかいう事実を認めるに足りる証拠はない。なるほど原判決は被告人が昭和二十八年六月頃コルト式拳銃一挺を所持した旨判示するのみで、その所持の始期を明示してはいないがその始期及び終期は、記録に徴し叙上の如く認定し得られ、原判示の如く昭和二十八年六月頃とのみ摘示するも、本件拳銃不法所持の事実の判示方法としてその行為を特定するに欠けるところはない。
その他記録を精査するも原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認はなく、原判決が被告人の右所為を銃砲刀剣類等所持取締令第二条・第二十六条第一号に問擬したのは正当であつて、所論の如き法令適用の過誤もない。論旨は理由がない。