大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)2351号 判決

被告人 渋谷忠二郎 外二名

〔抄 録〕

弁護人A及び同Bの論旨第一点(被告人萩原良一関係)

原判示第一の(一)(二)(三)の各犯罪事実は、原判決挙示の証拠により優にこれを認めることができ記録を精査検討するも右事実認定に何らの過誤あることを発見することができない。すなわち、これによれば、被告人萩原良一は、被告人渋谷忠二郎から原判示のように放火することを依頼されたが、自らこれを実行するまでの意思なく被告人河内善雄に対し更に情を告げその実行方を依頼しその実行方法等について詳細に指示を与えたことに基いて、被告人河内善雄においてこれを承諾し三回に亘り原判示の如くその実行に及んだのであるが、その間同被告人は被告人渋谷忠二郎から直接に、或は被告人萩原良一を介し間接にその実施方の督促を受けていたことが明瞭である。所論は、被告人萩原良一は、原判示第一の(一)(二)の犯行がいずれも未遂に終つた後においては、自ら犯行を続行する意思を抛棄したもので原判示第一の(三)の犯行には何ら関与していない旨抗争するのであるが、被告人萩原良一は原判示証拠によれば被告人河内善雄と本件犯行を謀議した後原判示第一の(一)、(二)の犯行後においても実行担当の共犯者である被告人河内善雄が所期の放火行為継続の意思を有し実行の機を窺つているのを知りながらこれを阻止するような手段は少しもとつていない(所論の援用する原審公判廷における富田きみの証言『所論に富田とみとあるは富田きみの誤記であること明白である。』中この点に関する部分は、同人の司法警察員及び検察官に対する供述調書の記載その他関係証拠に比照し措信し難い。)のであり、殊に本件において原判決は、右第一の(一)、(二)、(三)の所為を包括して刑法第百八条第六十条の一罪と認定しているのであるから、その共犯者である被告人河内善雄のした原判示第一の(三)の犯行の刑責を免れることはできないものである。蓋し、ある犯行を共謀した者が、たとえ、自らはその後においてその犯行の遂行の意思を抛棄したとしても、その実行担当の共犯者が他に存する場合においてはその企図した犯行は実現の過程を進行するものであるから、その抛棄を意思を外部に表明しその共犯者の犯行の実行を阻止するか結果の発生を阻止しないかぎり、その刑責は消滅しないものであつて、その共犯者において実行に及んだ謀議に基く犯罪の刑責を分担しなければならないことは極めて当然の事理であるからである(昭和二十四年十二月十七日最高裁判所第二小法廷判決、判例集第三巻第十二号二〇二八頁参照)。なお、所論は被告人萩原良一の本件所為は放火の幇助犯に過ぎないと主張するのであるが、本件証拠によるときは、前敍の如く犯行の実行担当の共犯者ではないが犯行を共謀した共同正犯と認定せざるを得ない。その他右主張を肯認するに足りる的確な証拠は毫も存在しない。従つて所論は、要するに独自の見解をもつて正当な原判決の事実認定を攻撃するに過ぎない故論旨は理由がない。

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