大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)2805号 判決

被告人 内山精一郎

〔抄 録〕

論旨第一及び第二点。

原判決挙示の証拠によれば、被告人は、朝日信託銀行株式会社渋谷支店の支店長代理として支店長の命を受けて同支店の経理その他一切の事務を掌理していたものであるが、予ねてから、同支店と当座預金取引のあつた原審相被告人福島正吉の依頼により、同人の他銀行宛の小切手で預金残高のないものを擅に受理してこれを同人の預金に繰り入れ右小切手を手形交換に廻わすことなく、これを手持として保管する方法によつて、同人の預金を不当に増加せしめ、右預金中から同人の要求に応じて預金払戻名下に不正の支払を為したり、そのため巨額に達した不正支払額の一部を糊塗するため右福島の斡旋により同支店に普通預金していた諸藤秀雄外十数名の預金中から月三分ないし六分の利子で融資して右の穴埋としたためその利子が嵩んだりなどした結果、同支店の手持勘定において約千五百万円にも及ぶ損失金を生ずるに至り、この穴埋資金に窮しこれが捻出に苦慮の末、茲に右福島と共謀して、非現業共済組合連合会と右支店との間に新たな信託契約を結んだ上、その信託期間が一年の長期に亘るべきことを奇貨として、これが契約に基き受託した金員を会社の帳簿ないしは証憑書類の上で全く抹殺する方法により右損失金や爾後に生ずべき同様の不正支払金の補填に流用せんことを企て、原判示各日時に右連合会と右支店との間に真正な指定信託契約を締結した上、被告人がその権限に基いて作成した指定信託証書と引換に同連合会事務局長栗田千足から原判示各小切手の交付を受けてそれぞれ預かるや即日それぞれ右支店の預金に入金はしたが、これを右契約に基く信託財産として処理することなく、右抹殺の方法により擅に右補填に流用したものであることが明白である。果して然らば、以上の経過に照らし、被告人は右各交付を受けて右支店のため業務上占有するや直ちにその占有にかかる同支店の小切手自体を自己のため不法に領得したものということができるから、原審が原判示事実を認定した上被告人の所為につき業務上横領の罪の成立を認めたことは正当である。されば、該小切手は、横線であつて当然取引銀行を経由して手形交換に付され現金化するものであり、その間二日を要するものであることに着目するときは、たとえ被告人が損失金の補填に流用したとするも、それは右現金化された後において始めて言い得るところであつて、小切手について流用があつたということはできないから、原判決はこの点において事実誤認の過誤を冒したものであるとか、或いは、被告人の所為につき刑法第二百四十七条所定の背任の罪が成立することはあつても業務上横領の罪は成立しないとの各所論は採用のかぎりではない。背任罪の成立に関する所論引用の大審院判例は本件に適切でない。

而して、詐欺の罪と業務上横領の罪とは自づからその事実関係を異にし、罪質またそれぞれ相異るところではあるけれども、その基本たる事実関係において同一性の認め得られるものがあるにおいては、当初詐欺事実を訴因とする公訴の提起があつたとするも、予備的の業務上横領の事実を内容とする訴因を追加でき得ないわけのものではない。なるほど、本件主たる訴因に属する詐欺の事実と予備的に追加された訴因における業務上横領の事実との間には、その被害者を異にする等多少の相違は存するけれども、いずれも前記連合会の事務局長栗田千足の交付にかかる他人の金員を不法に領得した点において基本たる事実関係を同一にしているものということができるから、原審が右訴因の追加を許した点を非難する所論は当らない。

なお所論において、原判示第一及び第二の事実は、予備的追加前すでに公訴の時効が完成していると主張し、縷々その理由を叙述しているが、公訴時効を規定している刑事訴訟法第二百五十条第三号(所論に第二号とあるは第三号の誤記と認める)に「長期十年以上の懲役又は禁錮にあたる罪については七年」とあるは、長期十年の懲役又は禁錮にあたる罪を含める趣旨のものであることは、夙に大審院判例(大審院判決明治四十四年十月十日―判決録十巻一六六七頁―参照)も明らかに示しているところであるから、右予備的に追加された訴因が法定刑を最高懲役十年とする業務上横領の事実を内容とするものである以上、その訴因追加の日が、犯行後未だ七年を経過しないことの記録上自づから明らかな本件においては、これが追加の訴因事実につき公訴時効の完成ありと主張する所論もまた採用するに由がない。

論旨はすべて理由がない。

(三宅 河原 遠藤)

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