大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)2894号 判決

被告人 川本精郎

〔抄 録〕

一、弁護人の控訴趣意第一点について。

原判決が被告人の罪となるべき事実第一として被告人が東京都目黒区下目黒一丁目一一五番地株式会社菊富士旅館において風間武雄に対し坂本自動車商会坂本秀雄なる名刺を提示して同人であるように装い、水上観光株式会社所有のハドソン五〇年型乗用車一台の売買斡旋方を申込んだ年月日を昭和三〇年二月九日頃、被告人が風間武雄を欺罔した右乗用車一台を騙取した年月日を同年二月一二日頃と各判示していることは所論の通りである。しかるに原判決が判示第一の事実認定に引用している証拠のうち、被告人の原審公判廷における供述を除く爾余の証拠すなわち風間武雄作成の詐欺被害届、同人の司法警察員に対する供述調書(昭和三〇年四月一三日附及び同年六月二八日附のもの)同人の検察官に対する供述調書、及び被告人の検察官に対する供述調書(昭和三〇年七月八日附のもの)によれば被告人が風間武雄に対し水上観光株式会社所有のハドソン五〇年型乗用車一台の売買斡旋方を申込んだ年月日は昭和三〇年四月九日頃であり、同人を欺罔して右乗用車一台を騙取した年月日は同年四月一二日であることを認めることができるのであつて、当審の事実取調における当審証人風間武雄の当公廷における供述によつても被告人が風間武雄に対し右乗用車一台の売買斡旋を申込んだ年月日は昭和三〇年四月九日頃であり、同人を欺罔して右乗用車一台を騙取した年月日は同年四月一二日であることを認めることができる。尤も原審第二回公判調書によると被告人は同公判期日において被告事件に対する陳述として事実はその通り相違ない旨供述していることが認められ、被告人に対する昭和三〇年七月八日附起訴状には詐欺の公訴事実として被告人が株式会社菊富士旅館において風間武雄に対し坂本自動車商会坂本秀雄と詐称して水上観光株式会社所有のハドソン五〇年型乗用車一台の売買斡旋方を申込んだ年月日を昭和三〇年二月九日、被告人が風間武雄を欺罔して右乗用車一台を騙取した年月日を同年二月一二日と掲記していることが認められるのであるから、原判決が右の被告人の原審公判廷における供述を原判示第一の事実の認定に引用しているものと看ることができるのであるが、被告人の原審公判廷における供述は売買斡旋方申込の年月日、騙取の年月日については前記各証拠と対照して到底信用することができないのである。従つて被告人が風間武雄に対し右乗用車一台の売買斡旋方を申込んだ年月日は昭和三〇年四月九日頃であり、同人から右乗用車一台を騙取した年月日は同年四月一二日と認定することが真実に合致するものというべきであり、この点において原判決は犯行の年月日を誤認していると共に、判示第一の事実について、事実摘示と挙示の証拠との間にくいちがいがあることとなりその理由にくいちがいを来しているものといわねばならない。しかも本件においては前記のように被告人に対する起訴状記載の詐欺の公訴事実中にも被告人の右乗用車一台売買斡旋申込の日が昭和三〇年二月九日、右乗用車一台騙取の年月日が同年二月一二日と掲記されているのであるから、原判決の右売買斡旋申込の年月日並に乗用車一台騙取の年月日の判示はこれを単なる誤記と認めるべきものではない。もとより犯罪の日時は刑事訴訟法にいわゆる罪となるべき事実ではないが、訴因を特定するについて影響を及ぼす事実であるから、原判決の認定判示した事実が起訴状記載の公訴事実と同一であり、その原判決の認定した事実と原判決挙示の証拠との間に二ケ月の相違の存する本件のような場合にはその判決理由のくいちがいは、原判決を破棄するに足るものと解するを相当とするのである。しからば、原判決に理由にくいちがいがあると主張する論旨は理由がある。

二、同第二点について。

原判決が被告人の前科関係について被告人は昭和二四年四月二日広島地方裁判所福山支部において窃盗罪により懲役一年六月に処せられ三年間右刑の執行を猶予されたが、その猶予期間中である昭和二五年五月一八日広島高等裁判所において強盗並に窃盗罪により懲役六年を言渡されたので右執行猶予は取消され、右二刑を合せて執行されたが、昭和二八年五月六日仮釈放され、本件犯行当時右窃盗の刑の執行を終つていたものであると判示し、この事実を法務省矯正局指紋係作成の指紋照会書に対する回答によつて認定していることは所論の通りである。しかしながら法務省矯正局指紋係作成の回答書によれば被告人の右前科関係の事実はこれを認めることができるのであつて、すなわちこれによると、被告人は昭和二四年四月二日広島地方裁判所福山支部において窃盗罪により懲役一年六月に処せられ三年間右刑の執行を猶予されたが、その猶予期間中である昭和二五年五月一八日広島高等裁判所において強盗、窃盗罪に依り懲役六年に処せられたので右執行猶予を取消され、右懲役六年の刑は昭和二五年五月一八日から執行されているうち、右懲役一年六月の刑は懲役一年一月一五日に、又懲役六年の刑は懲役四年六月に減刑されたので、昭和二七年六月一八日検察官の指揮により重い刑である懲役四年六月の刑の執行を停止し、軽い刑である懲役一年一月一五日の刑の執行に移り、その刑の執行は昭和二八年八月二日終了することとなり、懲役四年六月の刑は昭和二七年六月一八日まで既に二年一月の執行を終つたので、昭和二八年八月二日懲役一年一月一五日の刑の執行終了後に引続き、執行に移り昭和三〇年一一月二日その執行を終了することとなつていたところ、昭和二八年五月六日仮釈放されたものであることを認めることができるのである。このように検察官の指揮により重い刑の刑期の三分の一の執行を終つた後にその刑の執行を停止し軽い刑の執行に移り、これにより重い刑と軽い刑の執行の順序が変更されそれぞれの刑執行の終期が確定されてから軽い刑の刑期の三分の一の執行を終り二個の懲役刑について仮出獄を許された場合には、仮出獄期間の算出についての明文の規定はないが、先づ仮出獄を許された当時執行を受けていた刑の残刑期が仮出獄のときから進行しその刑期の満了の翌日から他の刑の残刑期が進行するものと解するを相当とする。蓋し仮出獄は懲役、禁錮の執行を受けている者につき、その刑期満了前における一定時期にこれを釈放し爾後の現実の執行を免除するものであるから、検察官の指揮により執行の順序が変更され、これにより受刑中の者の仮出獄の許される日を早められ、二個の刑の執行終了日の日が一旦確定されたような場合には、特段の事由のない限り本来の刑期満了の予定日に仮出獄の期間も満了するものと解するのは、仮出獄制度の本旨に適合するものである。かく解することは必ずしも所論のように受刑者にとつて極めて重大な不利益を及ぼすものとは認められない。二個の懲役刑について仮出獄を許された場合における仮出獄期間につき刑事訴訟法第四七四条の準用があるものと主張する所論は、仮出獄と刑の執行とを同視するもので仮出獄制度の本旨に反するものというべきであるから採用できない。従つて法務省矯正局指紋係作成の前記回答書により、被告人は原判示犯行当時前記窃盗罪の刑の執行を終つたものであることが認められ、この事実に基いて原判決が被告人の原判示犯行について累犯加重の規定を適用していることは正当である。しからば原判決には所論のように理由を付さない違法又は法令適用の誤はないから論旨は理由がない。

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